ScreenKiss #011

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Vol.011

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■ ムトゥ 踊るマハラジャ

 映画を観て元気になりたい人は、いますぐこのインド映画を見に行こう。インド
 映画、なにそれー、などと言うあなた、は絶対損してますよ。これは、それはそ
 れは楽しい、プリミティブな迫力にあふれた快作なのだ。技術的・ストーリー的
 に優れているとはとてもいえない。しかし、先進国が忘れてしまったハッタリ、
 いい加減さ、思い切り笑うことの気持ちよさを思い出したかったら、この映画を
 観ることだ。

 主人公のムトゥは、若主人に仕える馬車係。マハラジャではありません。しかし
 こいつが、見たところ四十男だが、実にいい笑顔をしている。長いマフラーを首
 にかけたままビュンビュンと振り回すのがかっこいい。何かあると、歌って踊る。
 踊り出すと、もう15分くらいずっと踊りっぱなし。どこからかバックダンサー
 も出てくる。背景も代わり、衣装も替わる。ストーリーの進行に支障をきたすけ
 れど、そんなこと気にしない、気にしない。

 冒頭、ご主人の誕生日に、どこかの寺で健康と安全を祈っていたムトゥ、それか
 ら自慢の馬車でご主人の屋敷に一目散に歌いながらつっぱしる。このシーンが、
 まるで千里万里を越えてきたように撮られている。いったいどこまで行ってたん
 だ、ムトゥ!

 ストーリーは、結婚もせずに芝居三昧の若主人が旅芸人の女優に惚れてしまうが、
 彼には、腹黒い叔父が連れてきた許嫁がいた。さらに、彼女は、初めは喧嘩ばか
 りしていたムトゥにほれてしまい・・という、ありがすぎてなかなかないラヴコ
 メディ。この問題を解決する鍵として、後半デウス・エクス・マキナ的に登場す
 る聖者様と、唐突に明かされる過去の因縁話など、上質とはいえない脚本だが、
 ここは、歌と踊り、そしてディテールを楽しもう。

 悪漢どもにさらわれそうなヒロインを助けて戦うムトゥ、マフラーをビュンビュ
 ン振り回し、仮面ライダーのようにジャンプし、香港カンフー映画にようにビシ
 バシとやっつける。ムトゥの馬車が、数十台の敵の馬車に追われるシーンは壮観。
 馬車が次々とクラッシュするシーンは「駅馬車」並の決死のスタントだ。走りす
 ぎて、言葉の通じない地域に来てしまい(インドは数十の言語のある他民族国家
 なのでした)、ヒロインに教わったとんでもない言葉を話したため(外国人相手
 によくやるんだよね、こういう悪戯)、木に縛りつけられる、ラヴレターが次々
 と人手に渡り、それに誘われた人々が、お互い隠れ合う、等々、他愛なさが、か
 えって芸になっている。役者たちが実に楽しそうに演じていて、観ている方も楽
 しくなる。

 繰り返すが、この映画の魅力は、先進国が失った、プリミティブなパワーと楽し
 さ、ということに尽きる。こんな楽しいだけ(それでなにが悪い!)の映画は、
 発展途上国でしかつくれないのかもしれない。インドの現実は厳しい。先日死去
 された漫画家ねこぢるの「ぢるぢる旅行記 インド編」では、自由恋愛の認めら
 れないインド人が、若い恋人たちが歌い踊る他愛ない映画に陶酔し、トランス状
 態で画面にのめり込んでいる様が描かれているが、この映画もインド人のとって
 は、現実からトリップするためのひとときの麻薬なのだろうか。俳優たちの笑顔
 がやたら明るいのは現実の裏返しか。

 いかん、暗くなってしまった。こんなことを考えながら映画を観るのは邪道でし
 かない。上の段落に書いたことは忘れよう。思いっきり笑いたい人は、今すぐ映
 画館へ行って、この映画を観よう。そして、笑え、歌え、踊ってもいいぞ。すれ
 っからしの映画ファンどもに告ぐ。先進国映画界に突きつけられた貧者の核爆弾
 「ムトゥ 踊るマハラジャ」を堪能せよ!

                                高野 朝光

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■ ビデオでシネマ

  このコーナーは見損なった作品、もう映画館では見られそうもない作品、ある
  いは未公開の作品に出会えるビデオのご紹介がてらの勝手な感想をお送りしま
  す。

 3 アキ・カウリスマキの「浮き雲」

   プレーンだからおもしろい

 花田清輝の作品集を読んでいたら、坂口安吾の「あきらめアネゴ」と称する小文
 を紹介するくだりが出てきて、この「あきらめアネゴ」というネーミングを私は
 けっこう気に入ってしまったのでした。銀座並木座の最終上映週に見た「晩菊」
 の、細川ちか子扮する役柄をふと思い出し、言い得て妙だと思ったのです(ちな
 みに清輝の小文は「日本人の感情表現」。興味のある方はご一読を)。

 そのネーミングを真似るなら、「浮き雲」は「諦めずアネゴ」、いや「懲りない
 アネゴ」と「懲りないアニキ」の物語ってことになりますか。路線バス運転手の
 夫とレストラン給仕長の妻が新たなローンを抱えたところで共に職を失ってしま
 い、悪戦苦闘して職を得るまでのお話。と書けば汗と涙の感動物っぽいが、どっ
 ちとも無縁。というのもイロナとラウリのこの夫婦の苦闘ぶり、どうにもおマヌ
 ケなのである。ダンナがトラック運転手の仕事を見つけてきて喜んだのもつかの
 間、目の検査で落とされた上に運転免許まで取り上げられちゃうし、奥さんは怪
 しげな職業斡旋所で高い斡旋料をふんだくられたあげく、悪徳レストランでただ
 働きするハメに。てな具合にせっせと就職活動するもののことごとく失敗の憂き
 目に遭う。まぁ、この手の苦労は今の日本にもないとはいえない。が、二人の場
 合はさらに自家用車を売って作ったなけ無しの虎の巻を、もっと増やそうとマジ
 でカジノに乗り込んで、あっけなくスッてしまうのだ。

 せっぱ詰った大事なときにこの思慮分別の無さ。しかもどちらかといえば滑稽味
 をもって描かれているので、ときにこいつらアホかと呆れもする。しかしよくよ
 く考えてみれば、人間のしていることなんて案外こんなものではないだろうか。
 どんな状況下でも理性的且つ適切な判断を下せる人なんてそうはいないし(たと
 えば最近信者が訴訟を起こしたことで巷を賑わしている某女優と女性総師の問題
 にしても、信者には切実な理由があったのだろうけど、客観的に見れば1億円もの
 お金をつぎ込むのはやっぱり常軌を逸しているとしか思えない)、ご本人が悲劇
 と感じているほどには物事は悲劇的に見えないものなのだから。

 カウリスマキという監督は、本人にとっては切実で悲劇的、だけど他人から見れ
 ば滑稽、といった設定を作るのがうまい。「レニングラード・カウボーイズ・
 ゴー・アメリカ」はサイコーにかっこいいと自負するロックバンドがアメリカに
 行ってズレを体験する話。「コンタクト・キラー」は自分を殺してほしいと殺し
 屋を頼んだ主人公が急に死ぬのがいやになり、その殺し屋から逃げ回る話。「愛
 しのタチアナ」なんて、冴えない男たちが冴えない女たちをナンパして、しかし
 アメリカ映画の主人公のようなかっこいいデートとは似ても似つかぬぎこちなさ
 を丁寧に描いてる。

 ただしどの作品も主人公を貶めたり嘲笑していはいない。むしろ他者の眼にはバ
 カバカしく見えても本人には重要な意味をもつものがあるのだということ。そし
 てかっこよくなくても滑稽でもいいじゃないか、というカウリスマキの人生観と
 そういう生き方をしている人々への共感が一環して流れている(うがった見方を
 すれば、ヨーロッパの田舎と言われ国際経済からはやや遅れをとりながら独自の
 生き方を摸索している北欧の、こういう生き方もいいじゃないかという肯定論と
 もとれなくもないが)。それに彼の作品の主人公も自分を悲劇のヒーローやヒロ
 インに仕立ててメソメソ自己憐憫に浸ってはいない。「浮き雲」にしても、なん
 の取り柄もない夫婦が、甘くない現実から決して逃避したりせず、愚痴も言わな
 ければ誰に責任転嫁するでもなく、闇雲とはいえ自分たちの責任で前向きに生き
 ていく。この「凝りなさ」がよいではないか。

 それにしても、相変わらずセリフの少ないこと。「マッチ工場の少女」の極端な
 無口は例外として、今回の二人も小津作品の笠智衆よりセリフが少ないのでは?
 
 映像もとてもシンプルだ。うるさいカットバックもないし、奇をてらったつなぎ
 方もしていない。主人公もごくごく平凡。それでいて結構最後まで見せてしま
 う。カウリスマキっていい腕してるとつくづく思ったのでした(余談ながら、私
 は彼の「ラヴィ・ド・ボエーム」も好きです)。

                                 quittan
                          [email protected]

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