ScreenKiss #012

バックナンバー

■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■

  ,.`☆
  .;^☆ S C R E E N K I S S
.’

Vol.012

■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■

   ・~★~・
   /※\ *
   * ※※※ *
   /☆※※☆\
  * ∴※※※※∴ * Merry Christmasl!
   /※※☆※☆※\
   ※☆※※※※※※
   /※※※※※※☆※\
   ■■■
   ■■■

■ 淀川 長治 先生を悼んで

 去る 11 月 11 日に映画評論家の淀川長治氏が 89 才で亡くなられた。丁度東京
 国際映画祭が終わったばかりで、何だか急に淋しくなってしまった感がある。実
 は私は中学生時代からの隠れファンであり、長年のファンを差し置いてここで彼
 への想い何ぞ語ったら叱られるであろうが、あえて書かせて頂く。

 中学生の頃は当時よく読んでいた映画関係の雑誌にお話を連載されていて、中学
 生でも分かりやすく解説してあるので、雑誌は買わずとも必ずそのページじゃ立
 ち読みしていた。高校生位に一時反抗期?があって淀川先生の手に掛かると全て
 の映画が面白そうに思えて、それに引っかかってみて失敗した時に結構逆恨みし
 たりしていた。それが大学生になると今度はこの見方が今の私の映画への対し方
 に大きな影響を与えている事に気が付いて、いつの間にかまた彼のファンになっ
 ていたのである。

 淀川先生も人間だから勿論作品に好き嫌いはおありなのだが、それ以前に映画が
 好きで好きでたまらないのだ。だからどんなにターキーマークのつく作品でもと
 にかく一点でも良いところを探す。音楽がだめなら調度品、それもだめなら小道
 具…と、とにかく何とか見つけだす。だが、実はそれでもだめな場合は、うまく
 避けていらしたのではないかと思う。こんな風に言っては失礼かとは思うが、だ
 からこそあの名言「私は嘗て嫌いな人に会った事がない」を堂々とおっしゃれる
 のだ。

 色々な著書を読んでいるうちナマ淀川に是非一度は会って見たいと思うようにな
 って漸く実現したのは ’96 年の冬。草月ホールで催された「アイルランド映画
 祭」での講演だった。その日は確か「フィオナの海」「ナッシングパーソナル」
 そして最後に「ダブリンバスのオスカーワイルド」の上映日で「ダブリン..」の
 前にアイルランド映画を語るというものだったが、2月位だったせいか丁度午後
 あたりから雪が降り始めた。

 淀川先生が着かれる頃は結構な降りになっていたが、きちんと早めに到着され、
 この講演の為に2時間位前から並んでいた私たち一人一人に声をかけられていっ
 た。講演はといえば、時間延長を気にされつつ「我が道を行く」「長い灰色の線」
 「クライングゲーム」等を身ぶり手振りそれにアイリッシュララバイ等の歌やら
 効果音まで交えて大熱演。とにかく感心するのがあれだけの記憶でまさにウォー
 キングシネマだったのに講演には必ず原稿、それも分厚いのを用意されていて、
 その時々の聴衆の反応を見つつ内容を変えてしまわれることだった。その時もぺ
 らぺらと原稿をめくりながら「この辺はつまらないから飛ばそうな~」とか仰り
 ながらお話を進めていかれ初めてその光景に遭遇した私は吃驚したものだ。

 それからは機会をみつけては講演会に参加するようなり、時々のテーマが異なっ
 ても同じ内容のお話が出てくる事も多々あることに気付いた。だが、これがまた
 あの独特の話法とお声で何度聞いても楽しいのだ。誰でも小さい頃お気に入りの
 絵本を暗記する位読んで貰っているのにまだ何度も読んでと大人にせがんだ事が
 あるだろう。これと同じなのだ。そしてこの内容がまた文楽からバレエ、歌舞伎
 と分野も多岐に亘っていてこれを本当にご自身楽しそうにお話してくださるのだ
 から癖になってしまう。

 何といっても間の取り方が上手で飽きさせない。それに決して難しい言葉を使わ
 れないからとても分かり易い。お母さまのお腹にいた頃からの感性だからかなう
 人はいないだろうが、通り一遍の映画解説書にある内容の羅列ではなくて、注意
 してみなくては忘れてしまっているような細かいシーンまで詳細に記憶されてい
 る。見ていない映画でもその語り口にかかるとまるで映画館にいるように目の前
 に映像が浮かんでしまう。たまには洋画劇場の解説にはみられない口調で「この
 映画はだめよ」何て仰る事もあって面白かった。

 面白いといえば本当にユーモアのセンスのある方で、よく講演の最初に「こんな
 に大勢の人が来てくれて嬉しいな。私より年上の人いるかな?」とか昨年アテネ
 フランセで初めて夜の講演(ここでは「映画塾」という事で断続的に塾が開講さ
 れていた)をされた時は「こんな夜によう来てくれたな。嬉しいな。どうせな、
 一人、二人、せいぜい 18 人位かと思ったのに」とか仰っていたが、本当に講演
 は早めに行かないと立ち見(というか、立ち聞き?)の憂き目にあってしまう。
 生徒も幅広い年齢層とはいえ、確かに先生より年上はいなかったが、たまにお話
 の中で俳優の名前を度忘れしてしまわれたりすると…ここがまた先生の偉いとこ
 ろなのだが、決して知ったか振りしたりごまかしたりせずに「誰だっけ?」と聴
 衆である私たちに聞いて、誰かか答えると「あんた偉いな~。若いな~。」と仰
 るのだが、言われた相手が 50 代、60 代何てことはしょっちゅうで言われた本
 人が自分の事かときょろきょろしてしまったりしていた。

 かくいう私もこんな経験がある。ある時講演後に、写真を撮らせて頂いた。ここ
 に付したものがその時のものだが、その時「お嬢ちゃん、お嬢ちゃん、一緒に写
 真撮ろうな。」と仰るので思わず誰のこと?ときょろきょろしてしまったが、目
 の前ににこにこと待っていて下さる先生がいらした。おまけに緊張して並ぶと「
 あんたな、ここに座るときは服を脱がなきゃいけないよ」と仰って周囲の空気も
 和ませてしまった。この写真はあとでとても気に入ってくださり、大きく引き延
 ばしたのをお送りしようと思っているうちに亡くなられてしまい、とても心残り
 になっている。

 講演後といえば、どんなにお疲れになられていてもアテネフランセでの講演後は
 必ずサイン等に気さくに応じて下さり我々ファンには貴重なひとときだった。そ
 して別れる時は「握手は?」とご自分から必ず手をさしのべてくださった。近く
 でお目に掛かってみるとそのまま家に持ち帰れそうな?位本当に小さくて可愛ら
 しいお爺ちゃまだが、何より聞く相手をよく考えてくださる事からたまに会場の
 椅子の配置が悪かったり狭すぎたりして環境が悪いと厳しく主催者側に注意され
 たりしていた。

 いつでもスーツで登壇され、色々な点でとてもきちんとされた方だった気がする。
 ところで先生は1度結婚されている。お相手は高野悦子氏。その時の名前はシネ
 マ君。その結婚式でもとてもきちんとしたお婿さんだったらしい。

 今年7月に「鶴屋南北からクルーゾーまで」というタイトルで夏らしく?幽霊の
 話をして下さったのが私にとって最期の講演になってしまったが、車椅子で担が
 れていらしたのにはちょっと哀しかった。が、話を始めるとそんな事を忘れてし
 まう位パワフルだったのに 10 月の黒澤監督のお葬式に見えた時の淀川先生が何
 だか急にかぼそく見えて心配していたところだった。まだまだ長生きして頂きた
 かったが、最後の洋画劇場の「さよなら、さよなら…」を見ていたらあまりに小
 さくてあまりに痛々しくてこれ以上頑張ってとは言えない気持ちになってしまっ
 た。

 毎回の講演での口癖で「私明日死ぬからね。まあ、死んだらお墓にね、小便でも
 かけて頂戴ね」と仰っていたけれど、もうあのお声が聞かれないと思うと本当に
 淋しい。私事だが、私は自身のお爺さんというものを知らずに育っているので、
 おそれ多いが何だか大事なお爺ちゃまを失ったような感じさえする。(でも、そ
 んな感じを持った人は多いのではないかと思う)しかし最後まで現役でそういう
 意味では羨ましい最期だと思った。最期の言葉も「もっと映画を見なさい」何て。
 ご遺志を継ぐ人はたくさんいますよ。淀川先生、本当にご苦労様でした。合掌。

                                鳥野 韻子

__________________________________________________S_c_r_e_e_n_K_i_s_s_____
                                    □

■ ビデオでシネマ

  このコーナーは見損なった作品、もう映画館では見られそうもない作品、ある
  いは未公開の作品に出会えるビデオのご紹介がてらの勝手な感想をお送りしま
  す。

 4「ダライ・ラマ」The Dalai Lam

   宗教家はエラいのか?

 今回はシネマといってもドキュメント。「阿片戦争」がレンタル中だったので、
 じゃあ同じ中国系でと手に取ったのがこのビデオだ。制作が97年とあるのは、ハ
 リウッド映画「セブン・イヤー・イン・チベット」を意識して作られたってこと
 だろうか。それはともかくダライ・ラマ14世の半生に焦点を当てつつ、チベット
 の宗教社会を描いたなかなかおもしろい作品である。

 チベット仏教の最高者ダライ・ラマとはキリスト教でいえばローマ法王のような
 ものか。ただしダライ・ラマの場合、ご存知のように生まれ変わりによって継承
 されるのがルール。ダライ・ラマが亡くなれば、どこかでその生まれ変わりの赤
 ん坊が誕生すると信じ、生まれ変わりを探し出して位につけるのである。そのた
 めに高僧たちはチベットと呼ばれる狭い地域だけでなく、広くあちこちを何年も
 かけて探し回る。

 あまりに非現実的なシステムだが、むしろ政治的な理由があってのことだとこの
 ビデオは指摘する。共産中国が入る前のチベットは前近代的な宗教政治社会であ
 り、政治を司るのは僧だった。しかし僧たちの間には当然のことながら派閥がで
 きる。放っておけば力のある派閥に都合のよい者が選ばれたり、一部の寺院や僧
 たちだけが得する選定が行われてしまう。そこで、そうした不公平をなくすため
 「生まれ変わり」が最高者選定の基準となったらしいのである。ま、生活の知恵
 というやつでしょうな。

 ほんとかどうか知らないが、ダライ・ラマの生まれ変わりと言われる子供は前世
 の記憶をもっており、ダライ・ラマ時代に使ったものなどを覚えているとか。し
 かし選定のためのテストは厳しい。偽物を混ぜたりして徹底的に真偽を追及する。
 これにパスしたのが現在のダライ・ラマ 14 世だ。彼はわずか 5 歳にして最高
 者の地位についた。ただし、18歳までは実権を握ることが許されないため周囲の
 高僧たちが摂政を行っていた。あれ?この手の言葉、日本史の授業にも出てきた
 と思いません?ほら、坊さんたちが権力を握って政治に嘴突っ込み始めた平安時
 代辺りに。

 そう、社会構造も平安時代によく似てるのだ。チベットは貴族社会で少数の貴族
 が膨大な荘園をもち、農奴をこき使っていた。僧たちも貴族といわば結託してい
 た。ダライ・ラマ14世だってごく平凡な出身なのにこの地位に選ばれた途端、両
 親は広い荘園をもらって贅沢三昧。ご本人も王侯のごとき生活で、お抱えの料理
 人は山ほどいるし、彼が飲むヨーグルト一杯のために何十頭という山羊が飼われ
 ていたそうな。1日一滴のヨーグルトさえ農奴に与えられなかった時代にである。

 実はパッケージの解説に「中国から見たダライ・ラマ」というような断り書きが
 入っていて、意味ありげだったのでどういうこっちゃと思っていたのだが、見て
 なるほどと納得した。ダライ・ラマを悪く描いているわけではないが、彼は貧し
 い農民を搾取する特権階級で荘園主であり、農奴は文字どおり奴隷のようにこき
 使われ、ボロを着て食べ物もロクに与えられない。そんな彼らに土地を開放し、
 幸せな暮らしを与えたのは人民解放軍だというわけ。まさに中国サイドから見た
 チベットであり、フィルム構成も多分に共産主義プロパガンダ的だ。

 しかし、そうした偏りはあるにせよ、今、世界的に高徳の師と仰がれているダラ
 イ・ラマがいったいいかなる者なのか、あるいはダライ・ラマとはいかなるシス
 テムで成立しているのかを知るための資料としては興味深い。

 私たちは宗教者というとどうしても俗を脱した徳の高い人間を想像しがち。政治
 から離れ贅沢などというものからも離れた清く正しい人だと思ってしまうものだ。
 しかしそもそも宗教とは何なのだろう。太古の昔を考えてみれば、宗教には祭祀
 を司る役目が強く、祭祀、祭はイコール政(まつりごと)でもあった。それに長
 い歴史を振り返れば、宗教者も所詮ただの人間であることは明らか。むしろ宗教
 者に過大な期待をする方がおかしいのかもしれない。

 この作品は、貴族政治の影響を受けていた若き日のダライ・ラマ14世しか描いて
 いない。それに恥ずかしながら14世がそれ以後どんな生活をしてきたのか、どん
 な「徳を積んできた」のか私は知らないので、これ 1 本で彼をどうこう言うこ
 とはできない。ただ、世界平和とか人種の平等といったテーマのときには必ず登
 場するダライ・ラマもかつて違う生き方をしていた時期があったのだということ。

 それにしても共産主義国のプロパガンダ映画って、どうしてこう自国を誇大 PR
 したがるんだろう。

                                 quittan
                          quittan@screenkiss.com

__________________________________________________S_c_r_e_e_n_K_i_s_s_____
                                    □

★ホームページでは過去に記事を参照できるようになっています。
 http://www.ScreenKiss.com/
★Copyrights(C), 1998 ScreenKiss
掲載された記事はいかなる形式であれ許可なく転載は禁じられています。
★色々な情報やアイディアや感想などありましたら下記のアドレスまで投稿をお願
 いします。そのほか編集に協力して下さる方も募集しています。
 mailto:webmaster@ScreenKiss.com
★広告募集中。詳しくはwebmaster@masahiro.orgまで。
★このメールマガジンは「まぐまぐ」「マッキー!」「フライヤー」のいずれかに
 より発行しています。Thanks!
★このメールマガジンの購読解除は、ご登録された発行元のホームページより出来
 ます。こちらでの作業は一切しておりません。
 まぐまぐ(http://rap.tegami.com/mag2/)
 マッキー!(http://macky.nifty.ne.jp/)
 フライヤー(http://flier.pos.to/)
 メルポット(http://melpot.net-planning.co.jp/)
 ココデメール(http://mail.cocode.ne.jp/)
 les metamondes (http://metamondes.com/)

The Director of Publication
. . ….M_a_s_a_h_i_r_o___N A K A T S U G A W A
webmaster@ScreenKiss.com
__________________________________________________S_c_r_e_e_n_K_i_s_s_____
                                    □
S c r e e n K i s s
http://www.ScreenKiss.com/