日本インディペンデント映画祭レポート

日本インディペンデント映画祭レポート(1999年5/2~4:有楽町・朝日ホール)

日映協、つまり日本映画製作者協会が毎年この時期開催していた「日映協フィルムフェスティバル」が今年から‘93年初回と同じ「日本インディペンデント映画祭」として第六回目を迎えた。

毎年テーマを決めての開催で、今年のテーマは「いま、映画プロデューサーは?」。1日だけだが、私は今年初めてこの映画祭に行った。この映画祭の魅力は何と言っても料金。3日間有効フリーパスで2000円、1日フリーパスでも1000円なのだ。

ちなみにディスカッションや受賞式を一作品とカウントして、毎日5本、3日間で15本、つまり1日パスでも1本200円、3日パスに至っては133円という破格プライスだ。(但し肉体的に無理だろうけど)

朝11:00から夜19:15の開始までの長丁場なので、その間半券さえなくさなければ、出入りも自由。但し連続して見たい場合は休憩時間が短いので、外出は無理だ。

今年は「HANA-BI」や「踊る大捜査線」といった比較的新しい作品や、「ルーキーズ・ゴト師株式会社」といった初上映もあってこの金額はかなり美味しい。

しかも、作品によっては製作や監督、出演者も登壇する。そして、初日には製作者達によるパネルディスカッション、最終日には製作者の選ぶ新人監督賞の発表とその作品の上映がある。

今年の最優秀新人監督賞・優秀新人監督賞には以下の作品が選ばれた。

最優秀新人監督賞:けんもち聡 監督 「いつものように」優秀新人監督賞:合津直枝 監督 「落下する夕方」

残念ながら毎日は見ることが出来なかったが、今年初めて参加してみたこの映画祭のうち5/3に上映された中から見た3本の映画についてレポートする。

<1> ちぎれ雲~いつか老人介護~ 製作:山村晋平、相沢徹監督:山口巧 (’99年・110分)

物語:広告会社OL百合子。早朝ジョギングで出会った友人のお婆ちゃんは徘徊。会社へ向かった駅前では、「行きたくない」と喚くお婆さんを無理に老人ホームで行かせる家族。会社では、両親介護の為に退職する上司。百合子の祖父も脳梗塞で半身附随となり、退院後は引き取る事に。そんな折、件のお婆さんはホームを脱走し、ひょんな事から百合子は彼女を通して福祉の現状に直面する事となるが。

ひとこと:確かに高齢化社会の現状だけでなく、家庭、地域社会、性といった様々な問題点を提起していながら巧く時間内にまとめている。

それに、出演者の熱演は素晴らしく、とりわけ、年老いても、恋する人間の美しさを体現してくれた、南美江さんには拍手だ。

しかし、冒頭で「文部省推薦」の文字が輝いていたのに、ちょっと嫌な予感がしていた。典型的な高齢化社会の例を並べたてて、ラストは介護福祉士を目指す明るい百合子であった・・・となるわけだが、問題点を盛り込みすぎて「『介護福祉士』を目指す君達へ」みたいな仕上がりになってしまった。教材として使用して、現場の生の声と併せて講演会に使用する、とかいうケースにはうってつけだろう。

知り合いに特別養護老人ホーム経営者がいる。この方は早くからこうした施設と地域社会の関係に積極的に取り組んでいて、近所の幼稚園等の子供や親が気軽に足を踏み入れられるような「楽しい」施設を目指している。

横浜にあるこのホームは「さくら苑」という“正式”名称の他に「Y2共和国」という呼び名をつけて、入居者の中から“姫”が選出されている。寝たきりをなくす為の様々な工夫や、最近では高齢者の共同生活も試みている。

アニマルコンパニオンシップを導入していた事から知ったのだが、行ってみて楽しく感じるホームは初めてだった。しかし、学生時代のボランティアで見てきた暗いイメージは、今回のこの作品に象徴されるのと全く同じだった。

重く、地味なテーマなだけに扱いが難しいと思う。その点、この作品は問題提起という意味では分かりやすいし、今度実施される介護保険制度を考える先駆になるとは思う。勿論、さくら苑とて楽しい事ばかりではないが、こうしたホームが実際存在する事も、百合子の未来の為にも触れたら良かったのではないかと思った。

<2> 生きたい  製作:新藤次郎監督:新藤兼人 (’99年・119分)

新藤次郎氏 舞台挨拶

この作品は、新藤兼人監督がウイルス性感冒に罹患して失明寸前と思われていた頃書いたシナリオによる。目がだめになる前と思われたか、急に書きまくり、急遽準備していた別作品を中止しこちらを先に撮影した。

新藤兼人監督は、今年87才になったばかりだが、80才を過ぎて初めて自分が“老人”だと気付き「午後の遺言状」やこの作品のように自分を含め、老人としての内部から高齢者を見るという作風に変化した。

ダンカンの「生きない」、黒澤監督の「生きる」等、類似したタイトルが多く、当初はこの題ではなかったが、監督の発案でこれになった。暗くなりがちな老人問題だが、これは見た後、明るい気持ちで帰れる作品。

ゴールデンウイーク明けから新作「三文役者」がクランク・インの予定。実はこれが延期したシナリオで、亡くなった殿山泰司氏の半生を描いたもので主役は竹中直人。(苗字が同じだから監督と親戚、と仰る氏の言葉は果たして本当?)

物語:70才の安吉が長野の「姨捨」駅にいる。東京へ戻った彼は行きつけのバー「ペペル・モコ」に行くが、このところどうも失禁が多く、店を追い出された後泥酔して道に倒れていたところを、通り掛かりの医師と出会う。

この病院で失敬した民話「姥捨て山」に夢中になった彼。ここから場面は彼が読み進む物語の内容をモノクロで、彼の現実をカラーで同時に進行していく。

安吉は長女で40才の躁鬱病の娘、徳子と暮らしているが生活費は主に彼の年金。現状を見兼ねた医師に老人ホーム行きを勧められ、一旦は入所してみるが・・・

ひとこと:高齢化社会の一端を担っている病院の現状や、家族愛を寓話的に描きながら、そこには鋭い監督の目が光っている。とにかくキャスティングが凄い。当初から彼を頭に描きつつ脚本を書いていたというだけあって、まさに適役の安吉役の三國連太郎。

リア王のごとく3人の子供に見捨てられながらも、親馬鹿ぶりが哀しい父だ。リアと異なり長女が面倒を見る、といってもこちらも自分の頭の蠅を追うのが精一杯。彼女を演じる大竹しのぶ。変な病院長に看護婦といった現実に比べ、妙にリアルな民話サイドの長老、津川雅彦に小柄ながらしっかりした“姥”の吉田日出子。

この辺りの皮肉も効いて、人生賛歌に仕上げた手腕は見事だ。長老が聾唖者という設定やカラスの使い方も巧みだ。

<3> カンゾー先生 監督:今村昌平製作:飯野久・松田康史(’98年・129分)

飯野久氏・柄本明氏 舞台挨拶

制作費集めが大変で、この作品よりロープライスの「うなぎ」を先に撮影した。現在、監督はシナリオ執筆中で、内容はまだ秘密。(飯野氏)

途中、配役交代があったが、2~3日のうちに決まった事だったので、かえって嬉しかった。この作品では日本アカデミー男優賞を受賞。と同時に報知、キネマ旬報、日刊スポーツ等各部門で受賞したが、(どの受賞も嬉しいが)キネ旬は印象的だった。(柄本氏)

*実は、私は昨年の東京国際映画祭で飯野氏を目の当たりにするまでは、お名前からして男性かと思っていた。小柄で、可愛い感じの彼女がこんなパワフルな活動をしているなんてなかなか想像が出来ない。

その、飯野氏に頭があがらないと言いつつどこかマイペースの柄本氏は、「最近は『元禄繚乱』等にもご出演中でお忙しいところを・・・」という司会者に「いやぁ役者何て暇ですから」と照れ笑い。12日からカンヌへ行く予定。

物語:敗戦間近の広島上空を米軍が飛行している。眼下では、今日も医師の赤城が往診鞄を手に走り続けている。この地域では栄養失調による肝臓病患者が蔓延しており、ほとんどの診断が「肝臓病」。そのため彼は通称「カンゾー先生」と呼ばれている。

両親を亡くした少女を助手として押しつけられた彼は、久しぶりに出席した学会で肝臓病研究の重要さを提言して会場から喝采を浴びる。これをきっかけに彼の研究熱は過熱。怪我をしたオランダ人脱走兵を手当した、ある日軍部の手入れに遭う。

親友の外科医を失い、全てが泡沫に帰した時、8月6日を迎えるが・・・

ひとこと:生臭坊主が胴に入ってる唐十郎はじめ、フランス映画『パリのレストラン』や『ペダル・ドゥース』でお馴染みのジャック・ガンブランがオランダ人に扮していたり、山本晋也監督が竹槍訓練を指導していたり、絶妙なキャスティング。

人の命を助ける医者は誠に戦争とは相容れない職業だ。カンゾー先生の言う通り栄養を摂って休んでいれば肝臓病にはならない。つまり、戦争という病原菌がなくならなければどんなに研究が進んでもどうにもならない事なのだ。研究に夢中になっている間に患者が亡くなってしまい、改めて初心に立ち返って走りつづける赤城医師。彼の見上げる鴨居の上の額には「走れ・・片足が折れなばもう片方で走れ・・両足折れなば膝を折っても走れ・・」というような内容が書かれている。

冒頭とラストと2回も出てくるのだが、誰かの有名な言葉なのだろうか?

確か今村監督の父も医者だったから、彼の父親像を反映しているのかもしれない。それにしても、臨終の患者に肝臓摘出を承諾させ、坊主と一緒に墓堀までして解剖するところは、江戸時代の腑分けに賭けた杉田玄白等を彷彿とさせる。

本人達が真剣なだけに妙に滑稽だ。『黒い雨』と比べて見るのも、戦争と今村ワールドを理解する一助になるだろう。

<4> ルーキーズ・ゴト師株式会社 監督:中田 信一郎製作:張江 肇・石川富康・鈴木ワタル (’99年・90分)

ここでの上映が初上映というのに惹かれ、少し頑張ったものの、この頃にはかなり目が疲労してきた。何となくパチンコのジャラジャラ音を聞くのも面倒になり、舞台挨拶もそこそこに遂に退場してしまったが、聞いたところまで報告。

「ゴト師株式会社」シリーズは今回で7作目。元は「パチンカー」連載の漫画の映画化。大学生が単位と引き替えに無理に引き込まれたパチンコ部。他校等とのパチンコ選手権に出場したり・・・という話・・・らしい。(すみません)

中田信一郎氏(監督)、川岡大次郎氏(俳優)、伊藤裕子氏(女優)舞台挨拶

撮影中の苦労といえば、パチンコホールの撮影が夜中だった事。大抵は夜の12:30から朝の8:00までで、これ以外の時間で撮影するには200~300万の営業保証が必要となる為やむを得なかった。楽しんで見て欲しい。(中田氏)

実は私生活ではパチンコをした事がなく、今回の撮影のために初めて挑戦した。意外とシンプルな印象を受けた。青春映画として楽しんで欲しい。(川岡氏)

1月の寒い時期の撮影だったのが大変だった。(伊藤氏)

*今回の上映は完成披露を兼ねており、一般には6月下旬に東京で、7月に大阪で公開予定。

■この映画祭も既に6回目だそうだが、つい見逃してしまった作品をビデオとさして変わりない料金でスクリーンで見られるのはかなり得した気分。いつも?GWが暇な人は1度出掛けてみては如何?

鳥野韻子

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