英国映画祭レポート

映画祭

今一番元気だと言われる英国映画。今回は 10/24~の第1部と国際映画祭開催と合わせた 10/31 ~の第2部に亘り新作 18 本のうち 13 本を観た。ハリウッドのような派手さはないが、身近な題材からワールドワイドな共通性を引き出していた作品が多かったのには繊細さと奥の深さを感じた。

作品は大きく分けて「社会派」系と「ファンタジー」系の2つのグループに集約された気がする。前者は『A:コスチュームプレー』、「ブラス」や「フルモンティ」に代表されるような『B:不況モノ』?と、そして『C:社会の裏面』に更に細分化され、後者はたまたま同一題材だった『D:フェアリー』と『E:しゃれた大人の恋物語』と5つに分類出来ると思う。

以下この分類に沿って紹介をしてみたい。第1部第2部共にクロージング作品のチケットの発売が遅れ入手がかなり困難だった。それにしても毎回開演前に聴かされる「威風堂々」が耳たこになってしまった2週間だった。

□ A □  コスチュームプレー編

◆オープニング&「鳩の翼」:10/24(土)*12/12(土)より公開ゲスト: アリスン・エリオット(女優)

作品内容

20 世紀初頭。電車の中で席を譲られる女性。譲った男の上着が彼女をかすめる。下車してエレヴェーターに乗った途端他人に見えた2人は実は恋人同士だった。男は新聞記者マートン。女は落ちぶれた貴族の娘ケイト。母は既に亡く、父は阿片中毒。その為彼女は裕福な叔母の元に引き取られている。今の暮らしを守るにはマートンとの結婚は不可能だった。

あるパーティにアメリカから来たという美しい資産家の娘ミリーがやって来る。彼女が余命幾ばくもない事を知ったケイトはミリーがマートンに惹かれている事を利用して、ある策略の元に3人でベニス旅行を計画する。

◆英国映画祭第1部・オープニング&舞台挨拶

英国大使館公使のチャールズ・ハンフリー氏と共に登壇。記念撮影等と共に簡単なQ&A

Q)まるで天使のようなミリーだが、この役作りはどのようにしたのか?

A)自分の人生を見直し、人生の大切さを学びつつ役作りをしていった。

Q)「バック・ビート」で一躍有名になった若手、イアン・ソフトリー監督の印象は?

A)彼の作品は「ハッカーズ」等含めとてもモダンな作品が多い。

Q)あなたはラックススーパーリッチのCMでも有名でとても美しいがその美しさの秘訣は?

A)健康であること。そしていつも恋をしている事。

オープニングというのでもっと華やかな感じを想像していたら何となく地味な開幕だった。

前売りを購入したとき「最後の1枚でした」と言われたのですさまじい混雑を考えていたがさほどでなかった。

ゲストのアリソン・エリオットは「この森で天使はバスを降りた」のままの楚々とした美人。ラックスのCMの話が出るとさらさらのヘアをさらりとふって見せたりするお茶目なところも。

この作品で絶賛されたヘレナ・ボナム・カーターが屈折した現実的な愛情ならアリソンのはどこまでも透明感のある、心に染みいる包括的な愛情表現を要求される。(どちらかというとコケティッシュな役柄の多いカーターなので、今回のようなタイプは珍しい)だが、アガペー的ともいえる後者の愛の強さはラストシーンを見れば納得出来る。

一方この対照的な2人に愛されるマートンが繊細すぎてちょっと存在が霞んでしまったところが残念だ。

マートン役のライナス・ローチも「司祭」の演技派だが、2人それぞれの愛情を受けとめるには少し弱い感じがする。そこがどこかロマンチシズムを持つ男性の役として魅力的でもあるけれど。(それにしても彼、「司祭」の頃に比べると何となく急に老けたような。第2のジュリアン・サンズにならないで欲しい、、、)

ヘンリー・ジェームズの原作、貴族社会、そして当時のヴェニスとくれば何となく想像がつく内容とはいえ、音楽やコスチューム、そして雨宿りの3人が見るクリムトの絵画やヴェニスの教会の内部など見所満載。

◆QUEEN VICTORIA 至上の恋 10/25(日) ’99年春公開予定ゲスト: ビリー・コノリー(俳優)

作品内容

建物の窓から石膏の胸像がスローモーションで落下してくる。ヴィクトリア女王を陰で支えた男、ブラウンの胸像だ。

何故破壊の憂き目に遭ったのか。1860年代。夫の死後長いこと喪に服したまま政治の舞台になかなか戻ろうとしない女王に夫の腹心だったブラウンが呼ばれる。

彼は堅苦しい女王の生活を型破りな方法で変えていき、女王の乗馬、水泳と活発に外出するようになって次第にブラウンとの交流も深まっていく。

こうしてハイランド地方で孤独だった彼女の心が次第に癒されている頃、政治の表舞台は女王を廃して皇太子を擁立しようとする者やその為にブラウンとの関係をスキャンダルに持ち込もうとする動きが出てくる。

漸く女王が政治に復帰するとブラウンは病に倒れる。それまでの事の次第を日記に書き続けていたがその日記は女王の側近の手によって永久に闇に葬り去られてしまった。

舞台挨拶: ビリー・コノリー

この英国王室を巡るスキャンダルは有名なものだが、当時のスコットランドにおいて階級という高い塀を登って女王と恋に落ちた一人のヒーローだ。その時代に於いては社会的な地位が異なるというハンディがあるがとてもベーシックなラブストーリーといえる。

タータンチェックのパンツで登場した彼に「何か今日は年とったベイ・シティ・ローラーズのような感じですね.」言われ、かなりショックだったようで、おおげさにリアクションしていた。

本国ではコメディアンとして有名だが、今回の出演はどのようにして決まったか脚本家がまだ何の台本もない段階で構想を話てくれたが、彼はそれを映画化するだけの資金がなかった。

そこでミラマックスが作品化した。この映画で(女王役の)ジュディ・リンチはアカデミー賞にノミネートされたが、私は何もなかった。(笑)きっとアカデミー賞には私はビッグすぎて向かないのだろう。

「内容からしてまるで“ボディガード”のようですね」という司会の言葉に、「あの映画は見てない」そして「子供の頃からチベットと日本に興味があったので嬉しいと言って舞台を去って行った。

映画の中では無骨でストレート、口べただが男らしくて頼りがいがあるブラウンを演じたビリーさんも大男なのは一緒だが、舞台ではコメディアンらしく大振りなジェスチャーで楽しいQ&Aだった。この日は多くの TV カメラが入っていたが、どこかに報道されたのだろうか?

本国では人気 TV シリーズのレギュラーで、最近では「ポカホンタス」でアテレコに挑戦するなど活躍しているらしい。

最後にブラウンの死後、彼の日記を探して闇に葬り去ることでほっとする連中の一言「悪人は休まる暇がない」という皮肉。今に世紀の大発見とかいってこの日記がみつかった何て事があったら面白いのに何て思ってしまった。

□ B □  不況モノ編

◆マイ・スウィート・シェフィールド 10/24(土)*12/23 公開ゲスト:ピート・ポスルスウェイト(俳優)スティーブン・ガーレット(製作)

作品内容

不況の中、レイは期限付で仲間と鉄塔のペンキ塗りの仕事を請け負う。それは日雇いの仕事でシェフィールド迄数キロにも及ぶ鉄塔を仕上げねばならないというものだったが、名物といえば岩登り位のこの町にオーストラリアから女性クライマーがやって来た事からペンキ塗りの男達の関係に微妙な変化が生じる。

ティーチ・イン

◇ピートさんへの質問

Q)英国映画が最近注目されているが英国映画の良い点は何か?

A)狭い世界を取材している作品でも世界の人に分かって貰える点。特定の話が一般的なものとして受け入れられる事。

Q)脚本を初めて見た時どう思ったか。

A)まず、驚いたが、年令の高い人が女の子を手に入れる所が良い(笑)私的な事である結婚と苛酷な労働という事が対立してしまう点に生きる事の意味を考えさせられるものだった。

Q)次回作は何ですか?

A)ハリス監督作品のテネシー・ウィリアム風のもの。(と南部訛りを披露)

◇プロジューサーへの質問

Q)脚本家サイモンさん(フルモンティの脚本家)とこの映画を作る事になったきっかけは?

A)8年前 TV ドラマの人材コーディネートをしていたが、そこを去る時彼が170ページの脚本をくれたのがきっかけ。その作品ではラストでスティーヴンが理由は分からないが死んでしまうものだった。

「ブラス」に続き不況モノに縁のあるピートさん。今回はペンキ塗りのリーダーだが、件の女性と全裸で登場のシーンがあり、本人は大照れだった。スクリーンでは個性的な役柄が多いが本人は会場の大拍手に思わず涙ぐんでしまうようなとても繊細な人柄だった。

出演作ではどれが好きかと聞かれ「その時々入れ込んでいるのでどれも好き」と言う答にも役者としての誇りを感じた。

「ツインタウン」という映画の中で主人公の双子兄弟の父親が作業中の事故以来賃金で雇用主ともめ、それをきっかけに兄弟が復讐をするものだったが、この作品にも見え隠れする理不尽な契約の横行。

このところ英国映画に多々見られるこうした現実社会は冗談でなく私達にも身近に思えてくる。が、仲間達の最低限の出費でのお祝?(鉄塔をピンクにする!!)等でその辺の暗さを緩和してくれている。

原題は Among the Giants。男達の中の紅一点の意味か、まるで Giant のようにそびえる鉄塔の事か…。

□ C □  社会の裏面編

◆ザ・ジェネラル:10/28(水)*公開未定ゲスト: なし

作品内容

男が自宅から車に乗り込む、、、と一人のバイカーがいきなり暴走してきて彼の顔に向かって発砲した。男の死亡の知らせに沸く警察署。見張りを付けていたはずの時間に何故?

被害者の男は「将軍」の異名をとる有名なギャングだった。貧しい子供時代に隣家の少女に恋をして彼女にお菓子を盗んだり、彼女と結婚してからは子供の為に玩具を盗みほとんどのものは盗んだものでまかなうという生活。

そのうち盗むものも次第に大胆になり仲間も増えて巧く法の目を盗んでは警察の手をくぐり抜けている。大手銀行を襲い、絵画の盗難に至っては警察も 24 時間体制で張り込みを続ける。そんな折、彼の片腕の男が組織を脱会するべく警察に協力するが、、、

これは公開未定ということと紹介の写真にエイドリアン・ダンバーが写っていて、それに惹かれてつい見てしまった1本。(エイドリアン・ダンバーはここでは将軍の右腕になっているが、クライング・ゲームやイノセントライズといった犯罪ものによく顔を出している個性派俳優。

「ヒア・マイ・ソング」や短篇「奇妙な隣人」等でも邪魔にならない存在感?を発揮している)主人公マーティン実在の人物らしいが、何とも憎めない奴なのだ。

貧乏の辛酸をなめているせいか、金持ちしか狙わないし、家庭的には実に良き父、良き夫なのだ。(もっともこの夫の点がなんとも理解しがたいのだが、妻の了解のもと彼女の妹とも子供をもうけている。)

取り壊しの為に今までの安アパートの立ち退きに遭えばテントを張ってでも抗議し、それでは..と「仕方なく」現金を強奪して高級住宅を購入。殺人は犯さず仲間とも戦利品は仲良く山分け。警察にはとっくに目をつけられているがそこを逆手にとってアリバイ工作。

いくら貧乏だからといって盗みをしていいわけがないが、政策をあざ笑うかのような彼の行動に思わず笑いがこみあげてしまう。クラス社会、権力等への痛烈な批判ともとれる。

ブレンダン・グリーソンというこの主役の俳優がまた何ともすっとぼけたいい味を出している。ちょうどジョン・グッドマンみたいな体型でちょっとのそのそしているのだが、どうしてこれがなかなか抜け目がない。

冒頭とラストが同じ狙撃シーンなのだが最初に見たときは「当然の報い」と思うものの、ラストで同じシーンを見ているのに「何も殺さなくたって(他にもんお非道な輩がいるだろうが、、、)」という心境になってしまう。

なかなかよく出来た脚本で2時間5分の上映時間があっという間だった。是非とも公開してほしいものだ。

◆第1部クロージング & FACE 10/30(金)*12/19(土)より公開

クロージング

、、、といっても目玉ゲストのロバート・カーライルが急遽キャンセルになって代わりに?第1部を振り返ってというしけた企画のみ。急に来日したリチャード・アッテンボローや第1部のゲストのティーチ・インやパーティの模様をスライドで見せてくれるという有り難い?!ものだった。

そして、「今アラン・パーカー監督(私の記憶に誤りがなければこの方 12 月に亡くなった気がする。この作品は一体どうなったのだろうか気になる)の最新作撮影の為にアイルランドにいて訪日出来なくなり残念」というカーライル氏のメッセージが代読され、がっかりの来場者には配給元から先着 850 名にカーライルのポートレートが配布された。

中には彼当ての花束を用意して来た女性までいて何だか気の毒だった。(でも新聞には“ゲストなし”と書かれていたのに)で、スクリーンいっぱいに彼の顔が映されるとせめてそれだけでも撮りたいのか会場からフラッシュの嵐が起こったのには驚いた。

作品内容

イーストエンド。ロンドン。35才のレイを筆頭に5人の窃盗団「フェイス」は造幣工場で札束の強奪に成功する。思ったより小額ながらもそれぞれが金を保管したが、何者かによって全員の金が消えてしまう。

レイの金を預かっていた老夫婦も、仲間の1人も死体となって発見される。犯人は意外な人物で、彼自身も制裁を受けるがレイはこの事件をきっかけに人生をやり直すべく恋人とともにこの地を離れる事を決意する。

「ニルバイマウス」のレイ・ウィンストン等の個性派俳優に加え、ロックバンド Blur のデーモン・アルバーンの出演も話題。

何ともいたたまれない心が痛くなる作品である。「ニルバイマウス」のようにやるせなくどうしようもない人間の有り様が伝わってくる。

レイも嘗ては毋や恋人達とともに反体制運動という手段で社会に対峙していたのに何時の間にか強盗という暴力的な行動に移行してしまっていたのだ。「(私がでなく)あなたが自分自身に一番失望しているのでしょ」という毋、「あなたはただの泥棒にすぎない」という恋人。強盗を働いても常に虚しさが澱のように心に沈んでいる、どこか悪等にもなりきれない存在。

そんな中に起こる僅かな金を巡る仲間どおしの不信感。「ファーゴ」のラストでやはり捕らえた殺人犯に刑事が質問する。「こんなちっぽけなお金で殺人を繰り返す何て。私にはわからない」些細な欲望が招く悲劇。

アントニア・バードと組んだ「司祭」に続きカーライルの心の葛藤が巧い。いつも本に夢中で誰も聞いていないのにその内容を語っては満足しているちょっと気弱なスティーブンの存在が重い作品の緩和剤となっている。サウンドもいいのでお薦めの1本。