ジャック・ドワイヨン監督独占インタビュー

ジャック・ドワイヨンという名前には馴染みがなくても、映画「ポネット」の監督と聞けば、ああと肯く人が少なくないのでは?今年の映画祭ではそのドワイヨン監督が、アフリカや中近東からの移民2世として経済的に困難な生活を送る思春期の少年少女にスポットを当てた新作「少年たち」と共に来日。我々の取材にも、30 分弱と短いながら快く応じてくれました。

監督への印象なども含め、このインタビューの模様を2回にわけてご紹介しましょう。

◇子供を映画に使うワケ
6月12日午後18時20分。私たちはインターコンチネンタル・ホテル7階に設置されたインタビュー・ルームに入るやいなや、事務局のスタッフから「監督の腰痛が悪化しているので、かなり遅れて来るかもしれない」と聞かされた。

ヤバいなあと思った。実は売れっ子俳優パトリック・ティムシットのインタビューも予定していたのだが、身体の具合が悪いという理由で前夜になってキャンセルの連絡が来たのである。やれやれ、ドワイヨンとのインタビューも泡と消えるのか。

ところが嬉しい誤算だった。ドワイヨン監督は若干遅れたものの、穏やかな笑顔をたたえて現れたのだ。率先して私たちの一人々々に手を差し伸べ握手をし、そっと静かにソファに腰掛ける。腰が痛いそうですが、と問いかけると、「持病ですし、よくあることですから」と笑って答え、腰をかばってかソファの肘掛けに細い身体を預けるように、ほんの少し寄りかかった。

さて、いよいよインタビューである。最初に伺ったのは、ドワイヨン監督は大人よりも子供の視点に興味があるのかどうかということ。監督は新作の「少年たち」や「ポネット」に限らず、「ピストルと少年」、「15歳の少女」など子供や思春期の少年少女を取り上げた映画を数多く撮っており、それが意図的な選択なのかどうか知りたかったからだ。

質問に対してドワイヨン監督は「私には子供が3人いますが」と前置きした上で、「フランスの映画人が子供に対してあまりに無関心なのに矛盾を感じていました。それはフランス映画界の一つの欠点でもあると思っていたんですね」と静かに話し始めた。

「実は『ポネット』が公開されたときフランスで議論が巻き起こりました。幼い子供に演技をさせるとは何たることか、というわけです。しかしそれは逆に言うと、子供を一人の人間と見なしていないということではないでしょうか。大人が感じるような感情を、子供は感じるはずがないと捕らえているのです。

「実際は、12歳13歳、あるいは4歳の子供でも、私たちと同じような感情を抱きます。母親が不在なら捨てられたような感情を感じますし、大事にされれば愛情を感じます。ただ、そうした気持ちの感じ方が大人より強く、過激なんです。

「子供は社会とのやり取りによって自分の感情をコントロールする術を知らないないので、大人であれば時と場合によっては抑えるであろう感情を、子供は我慢できません。感情に忠実です。自分の身に愉快でないことが起これば、子供は明確に拒否します。私の4歳になる1番下の子供などは、気に入らないことがあるとはっきりノーと言います。欲望に忠実なんですね。

「4歳、8歳、あるいは12歳の子供たちは確かに欲望に忠実に振る舞ってはいますが、しかし彼らに才能がなければ映画は撮れません。彼らは積極性に富んでいるし、ある部分では物事を受け入れる許容範囲がとても広い。この寛容さはフランスの女優さんにもたまに見られますが、普通の大人には無い感性なんです。さて、この話題はこの辺で止めてきましょう」

◇シナリオ作りは1年がかり
言われてみればドワイヨン作品に登場する子供たちは皆、単に無邪気さやあどけなさを見せるだけの役割では終わらない。「ポネット」なら死とは何か、神とはどんな存在か、「少年たち」ならいかに現実に立ち向かい自立していくかという具合に、映画の中の子供たちは大人にとっても非常に難しい問題を真剣に悩む。しかもその演技がとてもリアルでナチュラル。あまり真に迫っているので、演技ではなく一種のドキュメントではないかと錯覚してしまうほどだ。

子供たちのあの迫真の演技、果たして即興による演技なんだろうか(つまりはその時どきに見せる子供の予期せぬ反応をドキュメンタリーのように即興的に取り込んでいるのか)、それともシナリオ通りに演じさせているのか。

そんな疑問をぶつけると、「基本的に即興はしません」という答えが返ってきた。制作に取りかかる前に、まずたっぷり時間をかけて子供たちについての話を集めるそうで、「ポネット」のときにはその作業に1年ぐらいかけたとか。その綿密な取材から子供たちの気持ちなどを汲み取ってシーンを組み立て、シナリオを作っていくという。

「一度シナリオが出来てしまうと、もう変えません。後はコスチュームを着けるように子供の配置などを変えていくだけです。ただし、私の場合は何回も撮り直しをします。25回や30回撮り直すこともありますね。(シナリオに書かれた)気分を厳密に表現すために子供たちにかなり微妙なニュアンスまで求めるので、3回とか4回といった程度では望むシーンは撮れません。

「でも、彼らに作業に取り組む勇気も才能もあって、こちらの言うことをきちんと聞いてくれれば、そこで初めて彼らに自由な演技のチャンスが認められます。これは即興とは違います。即興と言うと、多くの人はその場その場で場面を作っていくと考えるでしょうが、その意味での即興は私はしないんです」

なんと、監督の作品に出演する子供たちはシナリオをよく把握し監督のイメージを十分理解した上で、ちゃんと演技していたわけだ。しかも時には30テイクも。そして、それに付き合うドワイヨン監督の根気たるや!

◇今子供映画の専門家だと思われているみたいですよ
ドワイヨン監督が子供を主演とした作品を多く撮る理由を伺ったら「子供には演技が出来ないと考えがちなフランス映画界に疑問を呈したからでもある」との答えが返ってきたところまでお伝えした。

ところが今年の映画祭では、クロード・ミレールの「冬の少年」、ベルトラン・タヴェルニエの「今日からスタート」など、子供を扱った映画が目立つ。もしやフランスの映画界はドワイヨン監督の映画に影響を受けているのではないだろうか?

そう質問すると監督は照れるでもなく、といって否定するでもなく、しかしやや身を乗り出して「自分のことを偉そうに言うつもりはありませんが、私が『ポネット』を撮っていなかったらタベルニエ監督も『今日からスタート』を撮らなかったかもしれませんね」と言った。

監督によれば、フランスでは子供を扱った映画は昔は少なく、この20年ぐらいで子供をテーマにする作品が増えてきたとのこと。「私の撮った映画はフランスの監督仲間の間ではよく知られていましたから、おそらく彼らも、子供を使って映画を撮るのがプロの俳優を使うのと同じぐらい楽しく喜びの持てる作業であると気付いたのではないでしょうか」

そして「ポネット」が日本で大変ヒットしたことを伝えると、「フランスよりも日本での方が反響がありました。アメリカとカナダでも好評でした。でも、このヒットで逆に悪影響が出てきましてね(笑)。大人を使った映画が作りにくくなってしまったんですよ。

「私が企画を持ち掛けると、いやいや、子供で撮ってくれないかと言われるのです。どうも、子供を扱う映画のスペシャリストだと思われてしまっているみたいなんですね(笑)」

◇日本で映画を撮ってもよいかも
さて、取材時間のタイムリミットは残りわずか。最後に日本についての感想、日本とフランスの違いについて伺った。

「『ポネット』が日本で配給されたことはとても嬉しいし、好評を得たのは素晴らしいことだと思います。ただ、日本とフランスでは言葉、文化の違いがあり、たとえば日本映画にもフランスで受け入れられるものとそうでないものがあります。

「しかし、まあ、それを気にしても仕方ありません。来日は5回目なので、まだ日本のことはよく分かりませんが、もし今後フランスで映画を作れなくなったら、日本で撮ってみるのもいいかな、と思っています」

いい終わると監督は穏やかに微笑んだ。

◇後記
背は高からず、やや猫背気味の痩身に、薄茶色のジャケット、黒シャツ、黒いジーンズ、黒いバスケットシューズ――と、一見とうの立ったロックンローラーといったイデタチで現れたドワイヨン監督。

その外見から、もしや相当個性が強くて、てこずらされるのではと思ったのだが、何の、会ってみたら意外にも物静かで親しみやすかった。インタビュー直前まで自室の硬い床に座って耐えていたという腰痛をものともせず、表情は終始にこやか。カメラに向かって愛敬を振りまいてみせるユーモラスな一面も見せてくれた。

語り口がまた穏やか。しかも取材を受けることに慣れきった人によくあるお決まりっぽいビジネスライクな話し方ではなく、質問に対して丁寧に答えてくれる。あれま、いい人じゃん、てのが正直な感想でアリマシタ。

しかし考えてみると、わずか4、5歳の子供から世界をアッと言わせる名演技を引き出したのは、単に監督としての演出手腕のみならず、こうした人柄があったからだろう。

それに、今回来日したベテラン監督の多くが大企業の重役然としたスタイルだっだのに比べて彼の格好がラフだったのも、商業ベースに乗らず翻弄されず、本当に作りたいもの、作らなければと考えるものだけを撮り続ける監督の、映画作りに対する姿勢の現われかもしれない。

時間が短くて突っ込んだ質問まで至らなかったのが心残りだが、腰痛とタイトなスケジュールをおしてインタビューに応じて下さったドワイヨン監督に感謝!そしてアポを取って下さった映画祭広報事務局の方にもこのページを借りてお礼を申し上げます。

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