バックステージ探訪

映画ビジネスに関わる方々にお話を伺うコーナーです。アポイントが取れ次第の取材なので、不定期になりますが、随時ご紹介していきたいと思います。

第1回目は字幕翻訳のベテラン山崎剛太郎先生です。(ちなみにお名前はヤマサキ コウタロウとお読みします)

外国映画を見る時、殆どの人がお世話になるもの、といえば「字幕」。今回は主にヨーロッパ映画の字幕翻訳に携わって 40 年という、大ベテランの山崎剛太郎先生にお話を伺ってきました。

先生はご年輩ながら、かくしゃくとして、しかもダンディ。フランス語を自在に操られる一方、とても美しい日本語で話される素敵な方でした。その先生に、字幕翻訳でのご苦労は勿論、お仕事を通しての映画へのまなざし等、様々な事を語って頂きました。

1)字幕を付ける際の作業等

まず、画面と台詞のリストを見ながらポーズを目安に区切りマークを付ける。(これを「箱書き」といいます)リストにはひとつひとつのダイアローグに番号が振られており、予め計算された字数とフィルムの長さに応じて翻訳を付していく。と、いうと簡単な作業のようだが、ここからが翻訳家氏の本領発揮なのだ。ちなみに1秒間に約4文字というのが字幕の基本らしい。

実際リストを見せて頂きながら(このリストがまた細かい。台詞番号、字数、フィルムの長さ、コマ数の順でずら~っと並んでいて、一見しただけでは何だかよくわからない)説明を受けたものの結構難しい。ここで、作業にまつわる御苦労を尋ねてみた。

台詞が短く終わっていても、シーンが続いている場合は単純に台詞をのばせばいいが、逆にシーンが短いのに台詞が多い場合は次のシーンにかぶさらないよう調節しなくてはならない。そういった時間との兼ね合いがひとつ。

そして、次に当然言葉の問題。例えばそのときの時局や、評判のものなどが分からないと、前後関係や内容が理解出来ない。今手掛けている台本にも知らない固有名詞が出てきた。

これはたまたま、まだ日本に輸入発売されていないシャンソンに出てくる名前という事が判明したが、本当はそんな意味でもフランス等へは毎年行っていた方がよい。いくらフランス人でも日本在住が長いとやはりわからない事も出てくるし。スラング等も変わっていくから。

実は先生のお嬢さんはフランスの方と結婚されて、リヨンで生活されている。そこで、先生は年に1度は必ずフランスを訪れるわけである。

長い台詞を1秒4文字の法則で埋めていくと、当然全てが翻訳出来ない。そこで、作品の内容もふまえて、無理のない日本語で表現していくのが一番の苦労するところといえる。

良く出来た字幕とは“映画の人物が生きている”ものだそうだ。

昔は試写室にこもって作業をしたので、見損ねたところを再度まわして貰うのも、映写技士に悪いし、と緊張して見たものだが、最近はビデオを見ながら家で仕事が出来るので便利になったそうだ。ただ、1度は大きい画面で見ないと画像の暗い部分がよくわからないので、まず試写室で見て、それからビデオで確認する手順をふむ。

1つの作品にかかる作業時間をお尋ねした処、「若いときは大体 500~600 の台詞を1日でこなしていたから、朝5時から夜の 11 時までぶっ通しで作業したものです。でも最近は 150~200 位。1日1巻(2000 フィート)出来ればいい方でしょうか。2時間ほどの作品で大体 15 巻位です。ただ、仕事中は他の映画は見ないようにしています。どうも別のものを間に見てしまうと雰囲気が変わってしまう心配があるのでね」との事だった。

※先生はまた、例えばポルトガルのマヌエル・デ・オリヴェイラ監督作品「世界の始まりへの旅」やエジプトのシャヒーン監督作品「炎のアンダルシア」等フランス語以外の外国語の作品の字幕翻訳も手がけられている。このような場合は原文からどのような段階を経て訳をつけられるのだろうか。

「例えば『炎のアンダルシア』は原語はアラビア語。まず、字もわからないのでアラビア語の分かる外語大の先生にもついてもらいました。特にこの映画はイスラム教の問題があって、そうした専門用語が多く、フランス語だけではなかなか自分自身納得出来ないのでこのような段階を踏みました。

最近手掛けた、旧ユーゴスラビアのエミール・クストリッツァ作品『黒猫、白猫』は登場人物がジプシーなので、原語はロマ語。これはフランス語の字幕付きで、台本は字幕と同じものがかいてあり、そこを日本語にしていくわけです。誰の台詞か分かるように自分で喋り手を記入したり、目安として(女性に向かって話している)とか(ダイスを振っている)とかシーンの特徴を入れたり工夫をします。

ユーゴの作品なのでコソボ問題等が出てくるかと心配だったのですが、これは全くのコメディでした。全部で16巻、2時間 20 分の作品です。」

では、原語の問題は別にして翻訳されやすい作品としにくい作品はあるのだろうか。

「オリヴェイラの『世界の始まりへの旅』は良かったね。あの映画は字幕をやりながら気に入った作品でした。楽しくて自分でも“のってる”っていう感じがしましたね。

配給のフランス映画社の人も喜んでくれましたよ。何と言うか枯れた良さがあります。彼の他の作品は手掛けなかったけれどとても好き。『階段通りの人々』も良かったね。演出の仕方が普通の監督と違ってとても文学的です。ただジャンルで言うとコメディは結構難しいです」

余談だが、私が初めて山崎先生をお見かけしたのは、東京国際映画祭での『世界の始まりへの旅』の時。この映画は気に入って一般公開になってまた見た位だが、独特の映像美とどこかお茶目な性格の監督の作品は「アブラハム渓谷」以来大好き。この作品を未見の方、是非お薦めです。

鳥野 韻子

スポンサーリンク
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Evernoteに保存Evernoteに保存
スポンサーリンク