あの娘と自転車に乗って

1998年/キルギスタン=フランス/カラー/ヴィスタ/81分

1998年ロカルノ国際映画祭銀豹賞
1998年ユーラシア国際映画祭グランプリ
1998年ヴィエンナーレ国際映画祭観客賞
1998年東京国際映画祭アジア映画賞特別賞
1998年モントリオール国際映画祭正式出品作品
1999年サンダンス国際映画祭正式出品作品
1999年ロッテルダム国際映画祭正式出品作品

監督:アクタン・アブディカリコフ出演:ミルラン・アブディカリコフ、アルビナ・イマスメワ

腕白なベシュケンピールの成長を、美しい田園風景の中に描く、監督の少年期の回想録的作品。ほとんどのモノクロ映像の中にところどころ、鮮烈なカラーを挿入した独特の映像が印象的。

ストーリーの紹介はPFFレポートで、簡単に触れているので、バックナンバー、ScreenKiss Vol.34をご参照ください。今回は、会場での監督のティーチ・インの模様を交えながら、ご紹介します。

さて、上記のように各国際映画祭で評価の高かった作品である。キルギスタン国内では’99年5月から一般公開し、大成功をおさめたそうだ。何しろ、監督は国内唯一のフィルムメーカーであり、国の独立後は予算不足から国産映画がなかなか製作出来ない状況だったから、アメリカ映画が多かった中、久しぶりの自国映画だったのだ。

最後のシーンは、あやとりをしている、手のクローズアップだ。一連のあやとり文化圏というのがあるらしいが、日本人の自分としては、ここにきて「そうか、何故か懐かしい匂いが感じると思ったら、同じアジアなんだ」という、しみじみとした思いに浸ってしまう。その位、すんなり身体にしみ込む映画なのだ。

監督は、この辺を「映画のリズムや、イメージを中心に据えた演出法がアジア的なのかもしれないが、この作品に関して言えば、台詞を最小限にして、画面によりその場の空気を観客に理解させる、という点が特異だろう」とコメントしている。

だが、やはりアジア以外の国々からも高い評価があるのは、そういった点だけでない魅力があるからだと思う。世界共通の、特に男の子の思春期。そして、主役の男の子に実子を用いながら、そこに監督自身を投影することによって生じる温かい眼差しがあるからだと思う。

原題の「ベシュケンピール」は勿論主役の名前だが、この言葉自体が「5人の老婆」を表し、英語のサブタイトに『Adopted Son』とあるように、養子縁組の際に村で尊敬されている老婆の事なのだ。3人だとコシュケンピールといい、彼女等による悪霊祓いを受けた子供を、悪霊から守る為に名前にしてしまう事もある、という。

主人公は、ある日自分の出生を知り、動揺するのだが、これはかつての監督自身の姿でもある。その強烈な思い出も含め、カラーによる演出部分は初恋など、彼の人生での劇的な場面に採用されている。

さて、登場するたくさんの子供達だが、ほとんどが『現地調達』の子だという。首都から約300mのロケ地ではそこでの住民の生活を大事にして、農作業も手伝いながらの撮影だったが、そのお陰か、彼らもきちんと「仕事」をこなしてくれたらしい。ギャラに関しての質問は『あまりに低いので『内緒なんだそうだ。なお、撮影には約1年間が費やされている。

邦題にある「自転車」は実は恋の重要な小道具。好きな女の子を、わざと後部座席をはずした自転車で迎えに行って、自分とハンドルの間に座らせる。そして上り坂になれば・・・という男の子の可愛い下心なのだ。監督の息子、ミルラン君もこの場面の撮影が一番のお気に入りだったとか。

色彩と同様、独特だったのが音楽。担当はヌルラン・ニシャーノフというキルギスの作曲家だが、自然の音とダイアローグだけの不思議なサウンドなのだ。

話ぶりも実に穏やかで、終始にこにこしている監督。彼を見ていると、何故かほっとする温かさのある人柄だった。彼はミルラン君の成長に合わせ、次回作を準備中とのことだ。

最近でこそ、あまりありがたくないニュースで、名前を耳にする事が多くなった国だが、キルギスタンの映画など滅多に目にする機会はないにも関わらず、自分のルーツを見るような、不思議な作品だ。

鳥野 韻子

スポンサーリンク
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Evernoteに保存Evernoteに保存
スポンサーリンク