ScreenKiss Vol.056
1999年 11月 2日 配信
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
,.`☆
.;^☆ S C R E E N K I S S
.’
Vol.056
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
>☆ C O N T E N T S ☆−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−☆< □東京国際映画祭:イラン短編集 □東京国際映画祭:ママ □東京国際映画祭:創世記 □プレビュー:エステサロン ヴィ−ナス・ビューティ >☆−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−☆S_c_r_e_e_n_K_i_s_s☆< >>☆1☆東京国際映画祭:イラン短編集☆<< ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛ ■生き残ることは闘いだ 監督:モスタファ・アレアハマッド パンフレットには「核戦争後、生き残った男女をセリフなしで描く異色作」とあ る。 私はといえば、「戦争によって爆死してしまった新妻にウェディングドレスを着 せて、ベッドに寝かしたまま葬ることができずにいる男の姿、その葛藤と、虚無 感を描いた作品」と思った。電話ボックスから呼出音が鳴り響くたびに、一瞬現 実に戻りつつも、夢を見ているような幻想を描いていると感じた。 異色ではあるが、内容にメッセージ性が足りない。妻が死んでいるのか、生きて いるのかすら分かりにくいのでは?勿論個人によって感じるものが違って当たり 前なのですが、観客の想像力や感性に頼りすぎるもの問題だし、その意図ではな いだろう点がさらに問題だ。 ■サークル 監督:モハマッド・シルヴァーニ 自転車のホイールを棒で押して転がす遊びを皆さんは何と呼んでいただろうか? 輪回し?これは、アフリカからアジア、アメリカまで世界中で見られる子供の遊 び。この映画は、まず一人暮らしの老人の寂しい日常を描く。ある日マンション を出たところで、子供が置きっぱなしにしていった輪(ホイール)を拾い、ひと とき輪回しに夢中になる。エンディングでは遊び疲れて眠りにつく老人の横顔が 映る。 年がいもない事を人に見られるのは恥ずかしいく、屋上で遊ぼうとするが、マン ションの管理人が掃除をしていて遊べなかったりする場面では、ほのぼのとした 笑みを浮かべることができる。 短編としてまとまりがあり、ほっとする作品。 ■ホワイト・ステーション 監督:セイフォラー・サマディアン 写真家が撮った映画。大雪の降る日の歩道を歩く女性達をビルの上から写したり、 電線や電灯にとまる鳥を写したりする。 特にストーリー性はないが、レンズの下の方に雪が積もって画面に影を作ってい てもそのまま撮影していたり、カラスが雪の中大声で鳴いているのを写し出した り、女性が何かを待って立ち止まっているところを上から写したり。実験的な、 ビデオアートともいえる一品。映画と言っていいのだろうか? 残念ながら白色の美しさも、その寒さも感じなかったのは私だけだろうか? ■鉄道パトロール 監督:レザ・ソバーニ 保線工の老人が荒野の線路を歩きながら、線路のボルトを点検していく。半日歩 くとそこには休憩小屋があり、反対側から歩いてきた保線工がすでに休んでいる。 彼らはしばらく休んで、それぞれ来た方に後戻りしていく。何度かそんなシーン が繰り返されるが、決して退屈には感じない。 そして定年ということだろう、ある日若者に仕事を引き継ぐことになってしまう。 若者と二人で線路を歩き、そしてその休憩小屋で3人で一時休み、分かれを告げ て、その後やってきた保線用の機関車に乗って帰っていく。その姿を見送りつづ ける若者が、線路の真ん中に立っている。 すべての映像が詩的で、寡黙な老工員の仕事ぶりが彼の年齢に重なる。静かで単 調な映画なのに退屈しないのは、そのカメラワークがしっかりしている為か。 ■人形と私 監督:パリヴァッシュ・ナザリイェ 貧困に苦しむの母子家庭。少女の唯一の友達は壊れ汚れた人形。貧困ということ の問題提起でもあるのではなかろうか。イスラム世界では宗教的な考えで貧富の 大きな差がでてはならないはずなのだが、現実はこれだ。 ■老人の歌 監督:アミール・シャハブ・ラザヴィアン りんごが大きな意味を持っているようだが、私には意味が掴めなかった。(こん な事もあるさ) 老人の歌(詩)は印象的ではあるが、歌う音量が大きく不快にも感じる。神から 授けられたと信じる子供を警察に奪われた後、自殺してしまう。(自殺かどうか、 映像に明確な答えはないが、彼の着ていた雨合羽が流れていく)神が自分を裏 切ったと感じたのか、願いが届かなくなった現実にショックを受けたのか? 老人は自分の歳を感じていたのだろうし、孤独にさいなまれていたようだし、そ れは自殺ではなく、単に死期を迎えただけの事かもしれない。 立野 浩超 __________________________________________________S_c_r_e_e_n_K_i_s_s_____ □ >>☆2☆東京国際映画祭:ママ☆<< ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛ 総評:★★★☆☆ 音楽:★☆☆☆☆ 制作費3億円とのこと。(ティーチインにて) また、オープニング当初に映し出され、エンディングの場所でもある故郷の駅は、 セットだとのこと。風景に解け込み、上手くできていた。いいセットだ。 映画としての物語性は多種多様で、犯罪あり、コメディーあり、母親の愛情あり、 兄弟愛あり。また、兄弟それぞれの生活に面白さを加えていて、飽きはこない。 が、しかし、どうも中途半端に融合しているようで、真剣さに欠けるといった印 象。 これは、出演者が多すぎるために感じる印象だと思う。家族を描く場合、4人が 映画の限界ではなかろうか。それ以上の場合、話が入り乱れすぎるために希薄な ものになってしまうし、個人のタイプを正確に覚えきれないから、感情移入が難 しくなってしまう。勿論、出演者が4人といっているのではなく、家族物の映画 を考えた場合の話である。 また、オープニングの約15分間は「これは名作になる」と思える印象深いカメ ラワークが続き、ほれぼれしてしまったが、その迫力に比べて、進めば進むほど 映像の迫力が薄れて、単なる娯楽映画に変わってしまう。もちろん、カメラマン が交代しているわけではないから、夜の色、下水管の中の色、精神病院の中の色 と、ライティングやレンズの使い分けはすばらしい。もう一息つめの作業が必要 な作品。 た。) 立野 浩超 __________________________________________________S_c_r_e_e_n_K_i_s_s_____ □ >>☆3☆東京国際映画祭:創世記☆<< ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛ アフリカ映画として評価した場合:★★★☆☆ 映像表現:★★★★☆ ハリウッドが作る宗教物大作とは全く分けて、頭を切り替えて見なくてはならな いだろうが、実にしっかりした映画だ。 しかし人間関係や部族関係など、宗教的な知識がない場合はかなり分かりづらい のではないだろうか。そこを簡単にするためには編集しなおし、場面を組み替え るよちがある。 この映画は、マリのバマコからさらに砂漠を300kmいったところでセットを組 み撮影されているが、マリというと国土の大半をサハラ砂漠に覆われた国。その 礫砂漠の中で撮影されたとは思えない映像美がこの映画にはたしかに存在する。 リオネル・クザンによる撮影は世界的に通用するのではなかろうか。 さて、セットといっても十分本物の質感があり、アフリカの原始的な生活の雰囲 気が実にリアルに現されている。乾いた大地、夜の暗闇、焚き火の光、それら全 てが見事な光量で撮影されている。 実際マリといえば観光地としても有名なドゴン族の村があるが、そこでの生活は この映画で繰り広げられる生活様式にかなり近いという印象をうけた。映画で使 用している階段としての木彫りの板は実際ドゴン族などではまだごく普通に使用 されているし、丸い鍋や、木の杖、一瞬写る少年が握っていたパチンコ(木の枝 で作ったもの)、衣装などは現在のマリやその回りの国で見かけるものだ。 結婚の申し込みの為に持参した穀物(ミレット)や、芋類などもその地域で現在 でも主食となっているもの。勿論映画の設定は“現在”ではないが、行ったこと のある人には、ますますリアルに感じるのではなかろうか。演技もしっかりして いて、アジアの下手な映画よりはよっぽど見ごたえある演出だ。 撮影場所が狭いため、広がりを感じないのが残念。もう少し広範囲なロケーショ ンがあればよかったが、予算は主要な問題点であろうから、それも指摘しづらい。 最後に残念だったのが、映画の終わり、まだ映像が残っているにもかかわらずス クリーンを閉めてしまった点。監督達に失礼な行為だが、だれにでもミスはある だろうから、仕方ないのかもしれない。しかし、それを失礼な行為だと認識して くれていればまだいいのだが。 立野 浩超 __________________________________________________S_c_r_e_e_n_K_i_s_s_____ □ >>☆4☆プレビュー:エステサロン ヴィ−ナス・ビューティ☆<< ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛ 監督:トニー・マーシャル 出演:ナタリー・バイ、ビュル・オジェ、サミュエル・ル・ビアン 1999年フランス/カラー/ヴィスタサイズ/105分 11月6日(土)〜Bunkamura ル・シネマにて公開 ■ストーリー 駅のカフェで男に別れを言い渡されたアンジェル(ナタリー・バイ)は、40才の ベテランエステシャン。 その様子を同じカフェで伺っていたアントワーヌ(サミュエル・ル・ビアン)は、 彼女に一目惚れ。以来猛烈なアタックを開始するが、年齢の差と過去の苦い記憶 から愛に臆病なアンジェルはなかなか心を開こうとしない。 彼女の通うエステサロンには、オーナーのナディーヌ(ビュル・オジェ)、同僚 で20才のマリ−(オドレイ・トトゥ)、元看護婦のサマンタ(マティルド・セニ エ)がいる。顧客も、若さを求める老婦人、亡妻から移植された皮膚のケアに来 る元パイロット、露出狂のマダムなど様々だ。 そうした人間模様の中、それぞれが迎えた大晦日は・・・。 ■コメント 落ち込んだ女性の多くは、気分を変える為に美容院に行くらしい・・・と、その 昔、化粧品会社に在籍していた筆者は教わった事があります。 フェイシャルマッサージも、自己愛の一種の形だとも。だから、美容産業は夢を 売る商売なんだそうだ。 作品では、しつこく鳴るチャイムの音と、別世界のような明るいピンクの室内が、 この夢と現実の境界線としての小道具になっている。まるで砂糖菓子のような衣 装でサロンに佇むアンジェルの姿は、大人のお伽話のようなラストに相応しい。 最近は日本でも、ゲームセンターにエステが併設されて、若い男性も気軽に利用 するようになった。とはいえ、フェイシャルばかりか、全身のケアとなるとまだ 敷居が高い。特に男性がエスティシャンのそのしなやかな指先にかかるとなると、 これはかなりエロティックだ。実際アンジェルの客として来たアントワーヌも、 危うい気分になってしまった。元パイロットの老紳士と、徐々に親密な関係に 陥ったマリ−も、この「夢」の魔法にかかったに違いない。 顔や身体を触らせる、という事は、ある程度の信頼関係がなければ成り立たない 商売だ。そこで、客からは様々な「真実」の声を聞かされる。が、まるで懺悔を 聞いた神父のようなエスティシャン達の、自分達自身の悩みはエステサロンでは 解決出来ない。 そうした不安を一時の愛で紛らわそうとするサマンタ。独立出来る腕前ながら、 その自信に欠け、若いアントワーヌのひたむきな愛を目前にしながら、傷つく事 への恐れから身動きの取れないアンジェル。一番若手のマリ−。そして、嫉妬に 燃えるアントワーヌの婚約者。 女性なら、この中の誰かの内に、自分自身をみつけて吃驚するかもしれない。 所謂「グランドホテル形式」をエステサロンに置き換えて、そこに女性達の人生 模様を投影させた展開は実に巧い。同監督は、こうした一種の群像劇に優れてお り、以前も、兄弟の関係とそれぞれの人生を描いた『ならず者の子供達』でこの 手腕を発揮していた。 一種の群像劇といえば、この作品にはたくさんのカメオ出演がある。彼らを捜し 出すのも一つの楽しみだ。叔母として登場するのは、マーシャル作品には常連の ミシュリーヌ・プレーヌ。何しろ監督の毋にして、『肉体の悪魔』で“あの” ジェラール・フィリップと共演していた可愛い女優さんである。 元パイロットは『めんどりの肉』や『アンジェリク』でならした、ロベール・ オッセン。サロンの顧客もクレール・ドニ監督(『ネネットとボニ』)、ブリ ジット・ルアン(『オリヴィエ、オリヴィエ』)、マリー・リヴェール(『緑の 光線』)等豪華な顔ぶれ。男性もフィリップ・アレル監督(『視線のエロス』)、 『ディーバ』以降スクリーンから退いていたフレデリック・アンドレイ等、丹念 に探してみて。(但し、Fアンドレイに関して超難解!) それにしても、露出狂マダム役で、ナイスバディを披露しているクレール・ヌ ブーの登場シーンは不思議とカットされずに拝めます。 次回は今年のフランス映画祭横浜で来日を果たした、トニー・マーシャル監督、 サミュエル・ル・ビアンのインタビューから作品にまつわる裏話をお届けします。 鳥野 韻子 __________________________________________________S_c_r_e_e_n_K_i_s_s_____ □ ┏━┓ I N F O R M A T I O N ┃F┃登録・解除・お問い合わせなどについて ┗━┻━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◇◇星(★)の意味___________________________◇ ◇ このメールマガジンで表示されている星は5つが最高で、1つが最低です。 ◇◇メールアドレス変更・解除______________________◇ ◇ このメールマガジンの購読解除は、ご登録された発行元のホームページより出 来ます。こちらでの作業は一切しておりません。 まぐまぐ (http://rap.tegami.com/mag2/m/0000007585.htm) マッキー! (http://macky.nifty.ne.jp/servlet/FreeMailServlet/ mail_backnum?freemail_id=412) メルポット (http://melpot.net-planning.co.jp/) ID:0000000008 ココデメール (http://mail.cocode.ne.jp/) ID:0200300007 ClickIncome (http://clickincome.net/mg_lt/mag/m00000031.html) Pubzine (http://www.pubzine.com/detail.asp?id=1547) emaga (http://www.emaga.com/entertainment/intro/film.html) ◇◇サービス______________________________◇ ◇ ホームページでは過去に記事を参照できるようになっています。 http://www.ScreenKiss.com/ Backnumber.toを利用したバックナンバー再送信サービスもあります。 http://backnumber.to/list.asp?userid=10007585 ◇◇広告募集______________________________◇ ◇ ScreenKissでは、広告を募集しております。 詳しくは、[email protected]へ ◇◇協力・提携_____________________________◇ ◇ AntenneFrance(http://www.antennefrance.com/) Le Petit Bouquet日本語版(http://www.metamondes.com/PetitBouquet/) ◇◇お問い合わせ____________________________◇ ◇ 色々な情報やアイディアや感想などありましたら下記のアドレスまで投稿をお 願いします。そのほか編集に協力して下さる方も募集しています。 mailto:[email protected] ◇◇スタッフ______________________________◇ ◇ 【編集長】 【記事執筆】 中津川 昌弘 鳥野 韻子 立野 浩超 山下 裕 MS. QT MAI ◇◇ScreenKissについて_________________________◇ ◇ 映画に関して、「人物」「作品」「映画祭」「制作」と言った観点から紹介・ 論評するメールマガジンです。 Copyrights(C), 1998-1999 ScreenKiss 掲載された記事はいかなる形式であれ許可なく転載は禁じられています。 ┼ ┼