第6回フランス映画祭~ランベール・ウィルソン

ゲストの来日はフランス映画祭の楽しみのひとつだが、ミーハーな私にとってこのところ毎年誰かしら“マイヒット”なゲストが来ている。1作目で一目惚れのC.クラピッシュ監督、子役時代から唾つけてました..のG.コラン、子供の頃からお慕いしてました..のB.ジロドー等なのだが、

今回ご紹介するのは3つ目のパターンのランベール・ウィルソン。この8月で確か御年40才。「恋するシャンソン」で鼻持ちならない不動産屋マルクを演じている。この中で「僕は女の子達が好き」を口パクしており、映画祭でも舞台挨拶でちょっと声を披露したが実際、れっきとしたバリトン歌手でもある。「ピーターと狼」等のナレーションやクラシックからポップスまで数枚のCDも出している。大感激の私をよそに映画祭での写真を見せると「一応…二枚目だけど…知らない」というのが大方の友人達の感想だが、私が最初に魅了されたのは実は“声”だった。

「ヘルマン夫人ですか?2等4号車の甥のフランツです。貴方の誕生日にジュリアさんから..」『ジュリア』におけるこの数秒の台詞が映画初出演。後にこれは丁度英国で演劇を学んでいた時に出演したという事を知ったが、この綺麗な発音の“イギリス人”俳優が気になった。誰だか分かったのは数年後で、何と「ラ・ブーム」のヒットを知らなかった私は破滅的なキャラクターを演じた「ランデブー」や「私生活のない女」でフランス語も喋れるんだ….と感心していたものだ。実際はイタリア語も堪能とか。「悪霊」でA.ワイダ、「建築家の腹」でP.グリーナウェイ、そして今回のA.レネ(以前、監督に出演希望のラブレターを書いたという)等個性的な監督との仕事が多く、好青年から詩人、ジゴロ、テロリストと役柄も様々だが(出演作が多い割に日本であまり馴染みがないのはそのせいかもしれない)最近では「恋する..」や「妻の恋人、夫の愛人」のようにちょっと嫌みで割を喰う自称プレイボーイの洒脱な演技が結構はまっている。

「恋する…」は口パクとはいえ現場は歌いながらの撮影だったというが、数年前からは本格的に声楽でもプロを考えていたらしい。1度聴いてみたいと思っていたところ、昨年東京国際映画祭に続き京都映画祭でも「女優マルキーズ」のプロモーションで来日。その際東京と2箇所でリサイタルを開催した。’96年にリリースし、翌年パリ公演を行ったアルバム「悪魔と奇跡」の内容のリサイタルはモノトーンの衣装にベレー、ジャケットで変化を凝らしながら「突然炎の如く」に始まり父の主演作「かくも長き不在」まで一気に約1時間半。映画の中のシャンソンという宣伝のせいか客層は思ったより年齢層が高く静かだった。プログラムがなく次々に歌われて行くのだが、冒頭で流れる映画のワンシーンの音から、台詞の感じと船の汽笛等から「望郷」だな…とか、全ての曲を知らなくても映画が推測出来る。とはいえヌーベルバーグ以前の古い映画が多くフランス語音痴の私にとってはカルトクイズだった。東京での最初のステージは声も心なしか硬い感じがしたものの徐々に馴染んできて、上背を上手に生かした表現力豊かな動きと共に本来の幅のある響きになった。他にもR.ベリ等フランス映画界には意外な歌える俳優がいるのだが彼の父(ジョルジュ)もその部類だったようだ。

スクリーンでも背と鼻の高さは印象的だが、実物に会ってみると189cmの身長は想像以上に大きくがっしりしていた。クロージングの日、名前を聞いてサインしながら「歌も演技も可能性を試したい」と流暢な英語で答えてくれる姿には誠実な印象を受けたが、舞台挨拶時のタキシードからうって変わってこの日はスウェット? にスニーカー、クラーク・ケント風の眼鏡という超ラフないでたち。よく言えば飾らない…見方変えれば無頓着な…感じにこれ又この装いにはやや不釣り合いなトワレ(香りそのものは爽やかで良いのですが…会場でサンプル配ってたYSLのJAZZ? )を纏ってちょっぴり前屈みでホテルへ戻る背中は少々お疲れ気味でした。

鳥野院子