マンハッタン殺人ミステリー

キネカ大森のウッディ・アレン特集よりマンハッタン殺人ミステリー

(私は、冷静にアレンの作品に★をつけることができない。)

とにかく映画館でアレンの過去の作品を見直す、いい機会がやってきた。キネカ大森だけでなく、常に映画館のアンケートでは「アレンの特集を!」と書いてきたのが効果あったというわけではないだろうが、最近の作品をメインに10本再上映。

隣人が心臓発作でなくなった。それに疑問を感じた夫婦が始めた探偵ごっこが思わぬ展開に…というストーリは良くできている。コメディーファンだけでなく、ミステリーファンでも楽しめるのではないだろうか。

尚、撮影(カルロ・ディ・パルマ)を始め、美術(サント・ロクアスト)、衣装(ジェフリー・カーランド)、編集(スーザン・モース)など、アレン映画に欠かせないスタッフがそろっており、毎回見事な作品を生み出す連中に拍手喝采。

立野 浩超

上海ルージュ

1930年代、上海を舞台にマフィアの愛人をめぐる切ない物語を愛人の付き人となった

少年の目を通して描く。アカデミー賞にもノミネートされた撮影の美しさが見所。

ふだん可愛らしい印象の主演のコン・リー(ラーメンのCMでもお馴染み)がここでは気性が激しいながらも本当は一人の恋する女である愛人の役を見事に演じている。

まさに彼女の演技の見事さに魅せられる一本だ。また一人の少年の目を通して描いたことで、暗黒街に生きる男女達の非情さ、哀しさなどをよりいっそう引き立てており

文句のない演出。中国映画初心者でも解り易く、観やすい作品である。私自身大のお気に入りの作品で劇場公開時に2回映画館で観てしまった。

MS. QT MAI

アイズ・ワイド・シャット

★★★

公開前からキワい噂ばかりが飛び回っていたが、オーストリアの作家が原作なだけにまるでクリムトの絵画を思わせるような美しい作品だった。

特に公開に際して一番問題になったという仮面舞踏会の世界は、見終わって数日たった今でも脳裏に焼き付いており、「シャイニング」の双子姉妹の映像、「時計じかけのオレンジ」のレイプシーンなどと同等に、いかにキューブリックが言葉や音声で訴えかけるのではなく、映像のみで人の心に恐怖の染みを作るのが上手い監督かを改めて感じた。

内容的には、夢物語のようでありながら、ある意味非常に現実的な物語である。性への憧れと不安、死の恐怖など、人間なら誰もが一度は体験するであろうテーマだからだ。この作品が彼の遺作となったのは感慨深いところだ。

と、ここまで賞賛しておいてなんだが、残念なのがやはり、キャスティングだ。ニコール・キッドマンは確かにビジュアル的には美しいし、冷たく無機質なふんいきが役にはあっているとは思う。だが、ひとたびセリフを口にすると舌足らずな声が幼稚に聞こえ、オープニングのダンスシーンなどは「酔っているの」というセリフを口にしなければ、ただの頭の悪い女にしか見えない。

もともと過去の作品「冷たい月を抱く女」が火曜サスペンスなみの作品に成り下がっていて、こういう繊細な役を彼女が出来るのだろうか、と心配だったのだが…

また、トム・クルーズに関して言えば、確かにいつものように頑張っているのだが…その「頑張ってます」的演技がやはりこのような静かな作品には向かないのではないか。

そもそも色っぽさを見え隠れさせなければいけない作品なのだから適度な色気と演技力、そして知性を兼ね備えた役者、たとえばレイフ・ファインズやジェフリー・ラッシュ、ユマ・サーマンやエリザベス・シューあたりにこの役をやってもらえれば更に作品の格も上がるとおもうのだが…

MS. QT MAI

クアトロディアス

★★★★

粗筋などに関してはBOX東中野のHOME PAGEに詳しく載っているのでご存知ない方はそちらからどうぞ。http://www.mmjp.or.jp/BOX/database/quatro.html

魅力的な映画は、出演者が有名だとか、監督が大物だからとか、原作者が文学賞をとったなどという事とはまったく関係がない別のところで生まれている。

しかし残念ながら映画を観にいく場合の映画選びの重要な要素とは、そういった事柄ばかりで、観客数もその3つの要素に大きく影響されている。たまには人の意見に耳を傾けて、今週末観にいく映画、借りるビデオを決めてもらいたい。

クアトロディアスは残念ながらすでに公開は終了していて、レンタルビデオに頼るしかないので、リバイバルに期待しましょう。

南米映画は仏映画よりもよっぽど見る機会が少ないが、最近はアカデミー賞からみで「セントラルステーション」、サンダンス映画祭からみで「フラミンゴの季節」と上映が続いた。「クアトロディアス」も97年アカデミー外国映画賞にノミネートされていた。

もちろん南米ばやりというわけではないが、今後も各配給会社には南米映画へも目を向けていってもらいたい。

それと同時に、国際交流協会が主催する映画際(特集といったほうが正確だが)でも積極的に取り上げてもらいたい。最近主催回数が減ったように感じるのは気のせいだろうか?

「クアトロディアス」を見終わると南米のパワーを感じる。この映画はチラシの裏側にあるサン誌の批評「この四日間(クアトロディアス)は見る者全員に忘れられない四日間になる!!」とか、スティーブン・スピルバーグの「ブルーノの最高傑作だ!」といった言葉があらわす通りで、期待を裏切らない。いつもの当てにならない宣伝文句ではなかった。

これはノンフィクションをもとにした映画だが、その為に生じる退屈さを排除するための努力を感じる。まず他面な側面からの演出。首謀者、誘拐された大使、目撃者、警察といった一人一人が重要な主役となっている。独唱で生じる押し付けがましさがないため、冷静に一人の目撃者として、または仲間としてこの映画を見続けることができる。

また、話の抜き出しが上手いため、首謀者フェルナンドの人生感にも共感ができたり、反対に具体的に批判ができたりすることだろう。物足りなくもない、説明しすぎでもない上手い脚本がそこにはある。

映画を撮るにあたり、誘拐首謀者達にたいしてあまり友好的になりすぎることもなく、反対に批判的でもなく、感情をあまり入れない撮影をしている。もちろん、中立ではないことは、チラシや予告編に使われていた写真で首謀者が握りこぶしで腕をあげ、ピースサインをかざしている姿を使用していることが暗示している。

もちろん、その曖昧に近い立場が、この事件が与えるメッセージや、原作が訴えたかったことをぼやけさせてもいるようだ。

あまり政治的にどうのという内容でもなく、単純に犯罪物映画としてみればいいのではなかろうか。実話ならではの迫力があるから、ハリウッド映画の犯罪物とは大きく雰囲気の違う映画として満喫できるだろうし、ギャグを織り交ぜているわけではないためリアルな恐怖がある。

2流ホラー映画よりも恐いかもしれない。まだまだ残暑厳しいいまごろにはお勧めの一品です。

立野 浩超

アイズワイドシャット

★★★

キューブリック作品については初期の頃の作品は観たことありせんが、最近に近い作品は観ていて、「シャイニング」や「フルメタルジャケット」は好きな作品です。

キューブリック作品において、映像の素晴らしさがよく言われますが、僕も全く同感で、映像にとても力強さというか説得力があるなあなんて思います。

さて、この作品ですが、一回観ただけではどうも僕には理解できなかったなあ。作品を観た後でパンフレットを見た時にも思ったりしました。途中で話を追いきれなかった部分もあり、その部分の甘さもあるからかもしれないけど、ラストの終わりかたも何か納得したようなしなかったようなあいまいな感じでした。

シーンの細かい部分では、T・クルーズが何者かに後をつけられるシーンの画、台所にいるT・クルーズとテーブルにいるN・キッドマンが視線を合わすシーン辺りが印象的でしたね。俳優については言うべきことはなく、N・キッドマンの最初のトイレのシーンには少し驚き。

しおわって紙で拭くなんてカットは普通の映画ではあえて表現はしないだろうに、それをしたキューブリックはやはり普通ではないな。それと共にN・キッドマンもよく演じたななと。

映像については、そのカットは引きで、そこのカットは寄りといった、非常に的確とでも言うべきカット割り、構図といったものを感じた。ただ、最初のパーティーのシーンから、(予告編で流れていた)家に戻って鏡で抱き合うシーンへの移行は僕には不自然だった。

この映画は僕にとって、ある意味で「2001年宇宙の旅」的である。映画の言いたいこと、面白さが何となく分かる日があとでくるのだろうといった意味で。それにしてもこれを機に、改めて全作品を観たいですね。

山下 裕

オープン・ユア・アイズ

謎めいているはずのストーリーが、確かに謎なのだが単にむちゃくちゃな組み立てをしてストーリーをごまかした挙げ句、結論を強引にもってきて結びとしているようだ。これが東京国際映画祭でグランプリを取ってしまう辺りに、東京国際映画祭がまだまだ世界的には認められていない、また日本人にも賞の重要性が認められない理由があるのだろう。

「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」(★★★★★)がグランプリであれば文句なかったのだが。

スペイン映画界のみならず世界中の女優の中で最近もっとも魅力を感じる女優、ペネロペ・クルスの魅力はあえてここで私がいうまでもないが、スペイン人の25才、現在最も美しいスペイン女性と言われ、アカデミー外国映画賞をとった「ベルエポック」に出演していた。あの美しさは日本人のみならず魅了される。最近日本ではちょうど続けさまに何本かの映画が公開されたため、非常に多作に出演していると錯覚するのだが、資料をのぞくと年間3、4本の映画にここ4年間は出演し続けている。人気のある役者の証拠だった。この点では演技面でもすでに定番の評価を得ているとも言えるのだろう。

しかし彼女がいくら美しくても、周りの役者がいくら唸らせるような演技をしていたとしても、この映画はストーリーをもう少し練り直し、謎を的確に見せなくてはだめだ。

昨年の映画祭で見逃し、期待していた映画だったが残念だ。

立野 浩超

アイズ・ワイド・シャット

★★★★

来年のアカデミー受賞式では、毎年恒例の”亡者の肖像”にスタンリー・キューブリク監督があの顔写真で紹介されると、会場は拍手が一段と高まる。そんなことを想像せずにはいられない状態でこの映画を観る。この映画のパンフレットの制作は公開第1週にまにあわなかった。監督の徹底的な秘密主義がもたらしたハプニングなのかもしれない。

そのおかげでストーリー、評価に関してはほとんど知識がないまま初日を迎え、特別キューブリック監督のファンでもないことも幸いし、ほとんど先入感なしで観ることができた。先入感があると判断が大きく鈍るが、それを排除している分、今回の★4つの評価には冷静に自身がもてる。一般的には監督の評価が高い場合先入感で評価されがちだし、映画作成秘話の噂を聞くといやがおうにも評価されてしまったりする。

この映画を観終えると脚本のストーリーの巧みさを実感する。8月7日より公開の「ロック、ストック&トゥー・・スモーキング・バレルズ」のように話が入り組んだ挙げ句、最後に1箇所に集約されるような巧みさではないが、トム・クルーズが1人で行動し、想像し、苦しんでいくことで完全に物語が一人称で進む中、ニコール・キッドマンとその他数人の感情が交差し、彼のなかに集約される。

これは見事な演出だ。感情をつき破るようなおおげさな表情の場面もないのに苦しみが伝わり、一流のホラーのごとくに汗を感じる。一流の犯罪推理もののように謎は深まり完結に近づく。

全編を通して全員の動きがスローテンポで、それを追いかけるカメラもゆっくりと動き、その時間の流れが観客に焦りを生む。人物をすこし引いた位置での撮影は、背景となる空間を広くとることで迷宮のごとき印象の室内をつくりだす。見事な撮影だ。特別変わったセットではないのに、その構図によりまったく異なった印象にさせる。

この点は「2001年 宇宙の旅」を思い出させた。宇宙空間を描くのに、すこし引いた場所から撮影することにより空間の広がりを描いている。ハル(コンピュータ)のスローな話しかけや、宇宙飛行士達の台詞の少なさ、無駄な音楽、効果音を省き真空の無音状態を実感させるとともに恐怖心をあおっていく。

宣伝ではセックスシーンに対して過剰反応があるが、今の世の中この程度のシーンはテレビでも氾濫しているし、ヘアーが見えるシーンに対してはフランス映画をよく観ている人達にはごく普通のことだろう。しかしその使い方には十分テクニックが感じられるし、最後まできれいだ。

18禁(18才以下は観る事ができない)ではあるが、日本の映画館はチェックが甘いし、まわりを見回す限り数人は明らかに18才以下だった。今後レンタルビデオでの扱いが気になる。この映画のように、今をそのまま突き進むような映画には映論ご担当者にも時代の勉強と若返りが必要ではなかろうか。もちろん世界的にいえることなのだろうが。

立野 浩超

ヒューマニティ

■『ヒューマニティ』L’HUMANITE 1998年(150分)
監督:ブリュノ・デュモン
出演:エマニュエル・ショット、セヴリーヌ・カネル、フィリップ・チュイエ

ストーリー:
少女がレイプの上殺害された。この事件を担当する刑事ファラオンは、妻子を亡くして母親と2人暮らし。隣人のドミノに恋心を抱いているが彼女には恋人がいる。ナイーヴな彼は、事件の捜査を進めていくうちに、様々な罪悪感を抱いてしまう。

コメント:
『ジーザスの日々』に次ぐデュモン監督の2作目にして、今年のカンヌ映画祭でグランプリを受賞した作品。今回はカンヌに次ぎ世界プレミア上映となる。タイトルは他者に向かっていく、人間の傾向を表している。

『ジーザスの日々』のラストで主人公を尋問する、少々調子はずれの警察官から着想を得て、この作品が生まれたという。多少のデフォルメはあるが、別の視点から物事を見る事の出来る人物としての主人公を位置している。

カンヌで主演女優賞を得たセヴリーヌ・カネルは、受賞で様々な嫉妬にも遭ったが、これはスタッフ全員に与えられた賞だと思う、とコメント。この映画は心から愛について描いた作品だ、とは監督のコメント。

主演2人とも初出演とは思えない、素晴らしい演技だった。『ジーザスの日々』より、更に人間に迫った作品となった。

CUBE

この映画は見事なパズル・ストーリーだ。

上下左右同じ模様の立方体の部屋が、上下左右にいくつも続く、謎の空間に閉じこめられた6人の男女が、脱出を目指して苦闘する。それぞれの部屋にはトラップが仕掛けられてあり、それらが人々の命を奪う。果たして彼らは脱出できるか?

彼らが閉じこめられた空間が、まずパズルそのもの。どうすれば安全な部屋を選択できるか?どうやってトラップを見破るか?

その空間的なパズルに加えて、人間関係・役割分担のパズルがある。それぞれの登場人物が、前半と後半で全く別の役割をもって行動することになることに注意。全く役立たず、あるいは足手まといと思われていた人物が、ある場所にはめ込まれると、脱出への鍵となるのだ。また、人間関係が、凶器ともなりうる。

この空間がどうしてできたか、誰が彼らを閉じ込めたかという答えは、はっきりとは語られないが、一人の人物が語る断片的な真相(?)は、皮肉で面白い。ほかの人物たちの推理は、宇宙人の仕業という「X-ファイル」風のものや、軍産共同体の陰謀という「JFK」風のものがあり、にやりとさせられる。

この映画は、二つ分の部屋のセットと、わずかのCGによって制作されたという。低予算の縛りをこれでクリアしたわけだ。ほとんど同じ模様の部屋の壁しか映らないにもかかわらず、緊迫感が最後まで持続する。上記の二つのパズルを組み合わせた見事なアイデアと脚本だ。ただし、この物語はあくまでパズルであり、潔く解釈や教訓の部分を切り捨てている。

俳優たちの選択も優れている。誰が最後まで生き残るか分からず、それぞれのキャラクターに与えられた、前半と後半で逆転する役割を巧みに演じている。

アイデア、脚本、演技、撮影の妙で低予算を逆手に取ることに成功した、経済性の高い作品である。

高野朝光